鄧小平や江沢民は国家主席や総書記を明け渡した後も、人民解放軍のトップの座をすぐには手放さず、当時の国家主席たちは自分の思うような政治ができなかった。習近平の前任、胡錦濤は、前々任の江沢民に苦しめられた。それを見てきた習近平は、前述の通り、自分が絶対的な権力を持っていくようにしたかったのだ。
野嶋さんは“脱・鄧小平”を指摘する。
「習近平政権のこの5年のやり方は『捧毛抑鄧』という言葉で表せます。毛沢東を持ち上げることで、鄧小平の路線を抑える。鄧小平が作った集団統治制や改革開放路線を否定する。こうすることで、自分のやりやすい政治体制を作りあげていくのです」
習近平永久政権となることで、日本にはどんな影響が出るのだろうか。野嶋さんは日中関係は不確実性が高まると見る。
「例え、周囲が反対しても、習近平本人の考えで全てが決まります。人民解放軍も軍政改革の結果、掌握度は高まり、全ての権力を一手に掌握することで、やれることが多くなるので、我々にはリスクが高まるといえます。経済面でも巨大なマーケットである中国市場は無視できませんが、地場企業との競争も激しくなって大企業以外は厳しいでしょうし、政治リスクという不安を抱えながらやっていくしかありません」
ただ、日本以上にリスクが高まるのは台湾だという。
「台湾の現政権は独立を志向する民進党(民主進歩党)で、次の選挙でも民進党が勝つ可能性が高い。そうなると、いらだった習近平が強硬姿勢に転じて偶発的な武力衝突が起こる可能性があるかもしれません。もちろん確率は高くはありません。ただ万が一、武力衝突が起こった場合、日本は日米安全保障条約の関係で巻き込まれるのは必須です。また、台湾には多くの日本人旅行者や在住者もいるわけですし」
任期撤廃という禁を破ってまで、絶大なる権力を握ろうとする習国家主席。果たして、暗黒時代の幕開けなのか、中国絶頂期の幕開けなのか。不安を覚える人々は世界中にいるのは間違いない。
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