田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
ジャーナリストの田原総一朗氏は、トランプ大統領が「核戦略見直し」を掲げる理由を説く(※写真はイメージ)ジャーナリストの田原総一朗氏は、トランプ大統領が「核戦略見直し」を掲げる理由を説く(※写真はイメージ)
 ジャーナリストの田原総一朗氏は、トランプ大統領が「核戦略見直し」を掲げる理由を説く。

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 トランプ大統領は、2月2日に「核戦略見直し」を発表した。

 トランプ大統領は「過去10年間、米国が核兵器の役割と数量を減らそうと努力してきたにもかかわらず、他の核保有国は数量を増大させ、安全保障戦略で核兵器の重要性を上げている」と強調し、「米国の歴代政権は、核兵器や核施設などの必要な近代化を先送りにしてきた」と、強く批判した。そして、核兵器の近代化や役割の拡大を進める考えを明らかにした。

 戦略の柱の一つが、新型の小型核弾頭の開発である。

 米国が現在保有する核兵器の多くは強力すぎて、実際に使用するのが困難だった、という。このため、ロシアなどから小型核などで攻撃を受けた際に反撃できるように、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)用に爆発力を抑えた小型核弾頭の開発を進めるとした。また水上艦に搭載できる新型の核巡航ミサイルの開発を目指すという。さらに、通常兵器やサイバー攻撃などを受けた場合にも核兵器で報復する可能性も排除しなかった。

 中・ロの動きを抑止するためには大統領に核使用の広範囲な選択肢が必要で、核の役割を拡大させることになったわけだ。

 それにしても、米政府は、冷戦後は一貫して核軍縮の強い方針を取り続けてきたのである。

 そして、アフガン戦争、イラク戦争によって、米国民の戦争のとらえ方が大きく変わった。アフガン戦争は、アフガニスタン国内のアルカイダのテロリストたちの自爆テロによってニューヨークの世界貿易センタービルとワシントンのペンタゴンが大きな被害を受けたことで、テロ集団への戦いとして始められた。

 イラク戦争は独裁者フセインがアルカイダと深い関係を持ち、しかも大量破壊兵器、つまり核兵器を隠し持っており、フセインをつぶせば、イラクは、そして中東は平穏になる、と思い込んで敢行したのであった。だが、フセインはアルカイダとは関係がなく、核兵器も開発していなかった。しかもフセインをつぶしたためにイラクは大混乱に陥り、ISなどという厄介な代物まで噴出した。そして、多くの米兵が命を失った。大失敗である。

 
 多くの米国民が、大失敗であることを認めた。戦争というものは、負けても勝ってもダメだと強く自覚して、心から反省した。そこで、史上初めて黒人の大統領であるバラク・オバマが誕生したのであった。

 オバマ大統領は「米国は世界の警察官であることを辞める」と宣言し、「核なき世界をつくる」と提唱した。そのオバマ大統領は2016年5月に米国大統領として初めて広島にやってきて、安倍首相も国民の多くも、オバマ大統領を大歓迎したのだった。

 トランプ大統領は、言ってみればオバマ大統領の戦略を廃棄して、核軍縮の流れを逆行させようとしているのである。

 トランプ大統領は、ロシアや中国が核兵器の拡大を実施しているので、それに対応せざるを得ないのだと強調し、まるでロシアと中国を敵役のように扱っている。新しい冷戦構造をかたちづくろうとしているようだ。だが、この新戦略は難航するのではないか。ヨーロッパの国の多くが、トランプ大統領の方針に反対しているからである。そんな中で、日本はどうすべきなのか。日本政府の姿勢が世界から注目されている。

週刊朝日 2018年3月9日号