津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)
津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)
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仮想通貨「NEM」の外部流出を受けて謝罪する「コインチェック」の経営陣ら=1月26日(c)朝日新聞社
仮想通貨「NEM」の外部流出を受けて謝罪する「コインチェック」の経営陣ら=1月26日(c)朝日新聞社

 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。580億円相当の仮想通貨が流出した事件の影響を解説する。

【写真】「NEM」の外部流出を受けて謝罪する「コインチェック」の経営陣ら

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 国内大手の仮想通貨取引所コインチェックは1月26日、約26万人の顧客から預かっていた580億円相当の仮想通貨「NEM(ネム)」がハッキングにより外部流出したことを明らかにした。4年前に経営破綻(はたん)した「マウント・ゴックス」の巨額消失事件を思い出させるが、今回の被害額はその規模を大きく上回る。この事態を受け、コインチェックはほぼすべての取引を停止した。

 コインチェックは2012年に設立され、当初は一般人の自分語りサービス「STORYS.JP」を運営し、「ビリギャル」などの人気コンテンツを生み出した。14年には仮想通貨取引所の運営に乗り出す。ブームを背景に、ビットコイン以外の仮想通貨、いわゆる「アルトコイン」を多数扱うことで急成長を遂げ、月の取引額は4兆円にも達していたという。昨年末からテレビCMを大規模に展開するなど、さらなる事業拡大を図っていた矢先の出来事だった。

 巨額流出事件はなぜ繰り返されてしまったのか。コインチェック自身も被害者であるとはいえ、最大の原因は同社の不十分なシステム管理体制にあったようだ。コインチェックは26日深夜の記者会見で、「十分な対策は講じてきた」との主張を繰り返したが、NEMをインターネットから遮断された「コールドウォレット」ではなく、ネットに常時接続された「ホットウォレット」にすべて保管し、複数の秘密鍵で分散管理する「マルチシグ」にも対応していなかったことを明らかにした。こうした対策を講じていれば、今回のような事態は防げた可能性が高い。安全性と利便性をてんびんにかけ、利便性を優先させていたことが今回の事態を招いた。

 マウント・ゴックス事件を教訓とした改正資金決済法が施行されたのは17年4月のことだ。仮想通貨取引における不正利用の防止と利用者保護のための規制が強化され、取引所には国への登録が義務づけられたが、締め付けというよりは、健全な発展のための最低限のルールを敷いたという意味合いが強い。

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