ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。米ツイッター社を巡る問題の背景を津田氏が解説する。
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ヘイトスピーチや嫌がらせ行為の蔓延(まんえん)、ロシアによる米大統領選挙介入疑惑、フェイクニュースの拡散──。米ツイッター社を巡る問題は、年を追うごとに増加の一途をたどっている。そんななか、政治広告をめぐって新たなトラブルが発覚した。
10月初め、米共和党のマーシャ・ブラックバーン下院議員は、くら替えを予定する来年の上院選挙に向け、ツイッターでビデオ広告を配信した。彼女はビデオのなかで、人工中絶反対を訴えてきた自身の成果として「全米家族計画連盟(PPFA)と戦い、胎児の臓器売買を阻止した」と語った。PPFAは人工中絶手術や性病治療、避妊薬の提供などを行うNGOだ。
10月9日、ツイッター社はこの発言を「否定的な反応を引き起こす扇情的な発言」であるとして、ブラックバーン陣営に広告配信の打ち切りを通告。当該発言を削除すれば、配信を再開すると伝えた。
「胎児の臓器売買を阻止した」という発言がなぜ扇情的だと判断されたのか。その理由は明らかにされていないが、人工中絶をめぐる対立が背景にあることは想像に難くない。米国では保守層を中心に中絶禁止を訴える声が強く、女性の権利として中絶を認めるべきだとするリベラル層との対立が、長らく続いていた。
この対立を一層激化させたのが、2015年7月に反中絶団体が公表したビデオだ。PPFA職員がひそかに中絶胎児の臓器売買を行っている証拠だとされ、米国内で大きな論争を引き起こした。下院は共和党主導で特別調査委員会を設置し、複数の州が独自にPPFAの調査を行ったが、臓器売買の証拠は発見されず、ビデオの検証を行ったメディアからも極めて恣意(しい)的な編集が行われていると指摘された。要は限りなくフェイクニュースに近い情報だったのだ。