同じスキーでも花形のアルペンとも大きな開きがある。アルペンのW杯創設は1967年と、1979年に始まったジャンプ男子より10年以上も早く、テレビ放映の歴史もはるかに長い。W杯の賞金額も試合により異なるが、昨季の個人戦優勝最高額は約918万円で、賞金ランキングトップの男子は約6037万円、女子はさらにその上を行く約6822万円を稼ぎ出した。

 徹子さんではないが、板2本とヘルメットだけ与えて時速100キロ超の中、250メートルもの飛距離を飛ばすことを考えると(※男子の最長記録は253.5メートル)ちょっと安いかもしれない。

 ただ、スキージャンプならではの事情もある。男子ジャンプの場合を考えてみたい。

 そもそも、ジャンプW杯の賞金制度は90年代に入ってからと比較的新しい。それまでは賞品という名のテレビやラジカセ、ビデオデッキなどの現物支給だった。1988年に16歳でW杯デビューを果たし、ジャンプのあらゆる歴史に立ち会ってきた葛西は、かつてビデオカメラをもらったことがあるそう。「ちょうど流行り始めた頃だったから、うれしくて回した」と楽しげに思い出していたが、欲しいものがもらえるかは運頼み。あるドイツ人選手はフィンランド遠征で電子レンジ3台を押し付けられたというから、ご褒美というには不都合な制度だ。

 アルペンはスキー板など用具が一般向けにも売れるのに対し、ジャンプ用具を買うのは競技者限定。ジャンプ用の板を作るメーカーが相次いで撤退しているのもマーケットの大きさと無縁でないはず。

 ジャンプ男子のレースディレクターを務めるワルター・ホファー氏は、「アルペンは人気の高さに加えて、観光業につながるのも強み」と指摘する。もちろんスキー場の近くまたは隣接するジャンプ台もあるが、周りに何もなく気を抜いたら食いはぐれそうな会場もある。

 アルペンは、前述の最高賞金が振る舞われる伝統のキッツビューエル(オーストリア)大会などはリゾート地としても有名。同大会前のパーティーには、サッカーやF1などスポーツ界からの関係者はもちろん、常連ゲストとして知られるアーノルド・シュワルツェネッガーら俳優やモデルが訪れる。メディアは“ミニ・ハリウッド”と呼び、自撮りに忙しいセレブたちの登場を報告するのが1月の風物詩にもなっている。キッツビューエルは数日間に大会関連で4000万ユーロ近く(約52億円)もの売上があるという。ホファー氏は「冬季競技で同じ条件なのはボブスレー、スケルトン、スピードスケート」と話す。なるほど、だ。

次のページ