作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は「二次元エロ」へ依存した男性の危険性を指摘する。
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先日の朝日新聞(7月18日付夕刊)で、萌えキャラを愛する男性の主張が掲載されていた。46歳会社員という男性曰く、
「『金なし、ヒマなし、魅力なし』の貧困男子が性暴力やテロを起こさずにいられるのは、二次元の性的創作物が一役買っていると断言できます。しかし規制は強化され、僕たちからそれすら奪おうとしている」
そもそもこの記事は、「性暴力表現が溢れている社会で女性が主体的に性を楽しむことなどできるだろうか?」という、JKビジネスに巻き込まれた少女の支援をしている仁藤夢乃さんの発言への批判として紹介されていた。男性は、仁藤さんの批評の矛先に二次元エロが入っていたことがよほど悔しかったらしい。彼の言い分はこうだ。ボクはまじめに生きてきたのに不遇だ、もてない、そんなボクを癒やしてくれたのが二次元エロだ、ボクは性風俗にはいかない、二次元エロ一筋だ、それなのに、その楽しみすら奪うのか?という怒りである。
この記事を読み思い出した男性がいる。魅力があるとは言いがたい40代男性で、容姿云々以上に、清潔である努力を完全放棄していた。そのくせ女性の容姿には厳しく、ババアのくせにブスのくせに、とやたらに言いたがる人だった。そんな彼に「彼女が欲しいなら、見た目に気を配ったら?」と助言した知人がいたのだが、彼の返答は衝撃的だった。
「ありのままの自分を愛してくれる女性と出会いたい。そうじゃないとウソになる」
ディズニーのプリンセスの台詞じゃない。40代日本人オタクオッサンの言葉だ。私は言葉を失った。
新聞紙上で男性は、自分を支え続けてくれた戦友(二次元エロ)を悪く言うのは許さない、しかも、その戦友のおかげで俺たちは犯罪者にならないですんでいるのだと語った。それは、ありのままの自分を受け止めてくれた戦友への感謝のようだった。今の女の子たちは、どうしたら「ありのままの自分」を生きられるのかと葛藤し、世界を切り拓こうとするディズニーのプリンセスに自己投影するが、男たちは「ありのままの自分」を疑うことなく、一切変える努力もせず、葛藤から逃げる道を選ぶのだろうか。
暴力的、性差別的二次元エロが溢れる社会環境で損なわれるものとは何だろう。実在の人物が描かれるわけではない暴力や差別表現の何が問題になるのだろう。そのことは社会が丁寧に議論していくべきことだ。そこで考えるべきことは女性の人権、性に対する考察、そしてまた、「男性のエロ依存・エロ中毒」という問題も大きいのだと、今回の記事で私は気がつかされた。彼の主張は、薬物依存状態の人の「クスリが切れる」ことへの恐怖と変わらない。かなり深刻な問題だと思う。
※週刊朝日 2017年8月4日号