

仏カンヌ国際映画祭(5月17~28日)で、最高賞を競う長編コンペティション部門にノミネートされた「光」。監督の河瀬直美さんと、出演する神野三鈴さんが、作品の魅力や舞台裏について語り合った。
――「光」は、視覚障害者向けの映画の音声ガイドに焦点を当てています。若いヒロインが音声ガイドを作る中で、様々な壁に突き当たりながら成長していく。神野さんは、葛藤するヒロインを、時に優しく時に厳しく見守る上司の智子の役。そして、音声ガイドが作られる劇中の映画に出演する女優の時江でもあります。河瀬さんは、物語の鍵になる2役に、なぜ神野さんを起用されたのですか。
河瀬:神野さんがまとっている空気かなあ。具体的なものじゃないです。彼女とはものすごく気が合うやろなあ、と。
神野:オーディションの時、河瀬さんが「時江をやってもらうに当たって」と言うので「もう決まりですか」と聞き直しました。「ダメですか」と、まるで最初から決まっていたみたいに言われ、うれしくて涙が出てきちゃった。
河瀬:泣いてたね~。
神野:そしたら河瀬さんが抱きしめてくれて。不思議な始まりでしたね。
――オーディションって演技を見ているんですか。
河瀬:いや、見ないですね。出来るでしょ、演技は(笑)。何か通じ合うものがないと。心の言語が通じないと、一緒にモノは作れないです、特に河瀬組は。
――それはどこで分かるんですか。
河瀬:人間を観察するのが昔から好きだったからでしょうか、所作や受け答えの中に、その人が生きてきた全部が表れると思うんです。神野さんはまず姪御さんの話をされました。「2つ目の窓」という私の映画を見てすごく影響を受けてます、みたいな話でした。
神野:姪っ子は熊本の阿蘇の農場で育ち、学校になじめなかったけれど、「2つ目の窓」が自分の生きる糧になったと言います。この映画があるから自分を見失わなかった、と。映画が人生に影響を与えるところを現実に見たんです。それって「光」の主題でもある。姪にはとても感謝しています。
河瀬:最初の脚本では、時江役の女優は智子とは別の人間だったので、神野さんには時江役だけを演じてもらうつもりでした。