ジョン・マクラフリン参加のミシガン・ライヴ、これぞ決定版
Michigan 1970 (One And One)
『スウェディッシュ・デヴィル』(Mega Disc)を『ロスト・フリート』(Hannibal)に差し替えるか? 先の拙著『マイルスを聴けV8』でもっとも悩んだのは、ヴァージョンアップされた旧盤をどこまで反映させるか、だった。つまり音質の向上を謳い文句にした最新版にいかに対処すべきか。最終的には「まえがき」で書いたとおり、公式盤における音質の変遷を無視しているのだからブートもそこそこでいいだろうとの結論に落ち着いた。もちろん、演奏時間や内容等が著しく異なる場合やまったく別モノに生まれ変わったブツは例外だが、そのようなものは数えるほどしかない。
とはいうものの1970年2月21日のミシガン・ライヴは次回(V9)から、このワン・アンド・ワン盤に差し替えたいと強く思う。ちなみにこの日のライヴは、最初に『ヒル・オーディトリアム』(Jazz Masters)、次にヴァージョンアップ盤が『アン・アーバー1970』(Mega Disc)として登場したが、今回はそのメガ盤を上回るクオリティ、これは無視できない。しかし差し替え理由はそれだけではない。いや最大の要因は、ジャケットにある。見よ、これぞジョン・マクラフリン(なんとヒゲ面)のマイルス・バンドにおける雄姿を捉えた、知る限り唯一のショット。すなわちブートが"記録"とするなら、このジャケットはその伝統を継承し、よってこれは内容、ジャケットともどもミシガン・ライヴの新たな決定版として紹介しなければならない。
ロスト・クインテットの5人にマクラフリン(ついでにアイアートも)が加わった唯一のライヴ音源。全長50分弱。冒頭の《イッツ・アバウト・ザット・タイム》がショーターのソロからの収録とはいえ、音質は過去最高レヴェルに達し、いきなりマクラフリンの『ジャック・ジョンソン』と同じ硬質のギター・カッティングが飛びかかる。アイアートの細かい大道芸も鮮明にして警笛吹いてヒューヒューと"ク~ッ"な展開。このパートにおけるマクラフリンのフリー・ジャズ・ギターを聴いてほしい。そこにからむチックのエレクトリック・ピアノもたまりません。
ベストはラストの《マスクァレロ》か。スパニッシュなマイルス、そのマイルスよりスパニッシュな「あんた、パコ・デ・ルシアか」とつっこみたくなるようなマクラフリンがひきつりながらも圧倒的にすばらしい。マイルスがソロの最後の一音で流れを切断し、間髪入れずショーターが飛び出す瞬間、じつにもうなんというか。
【収録曲一覧】
1 It's About That Time (incomplete)
2 I Fall In Love Too Easily
3 Sanctuary
4 Bitches Brew
5 Masqualero~The Theme
Miles Davis (tp) Wayne Shorter (ss, ts) John McLaughlin (elg) Chick Corea (elp) Dave Holland (b, elb) Jack DeJohnette (ds) Airto Moreira (per)
1970/2/21 (Michigan)