ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏は、横行するフェイクニュースの対策について解説する。

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 間近に迫ったフランス大統領選が風雲急を告げている。第1回投票が行われる4月23日に向け、各候補者たちは力の入った選挙キャンペーンを行っているが、今回の選挙戦はこれまで以上にスキャンダル報道や噂(うわさ)が飛び交っており、現時点では誰が勝つのかまったく見通せない状況だ。

 こうした「情報戦」の背後で関与が噂されているのが、米大統領選でも“暗躍した”と言われるロシアのプーチン大統領とウィキリークスだ。現時点で大統領選の最有力候補と言われる中道無党派で前経済大臣のマクロン候補の選対本部がロイターの記者に語ったところによると、マクロン候補はロシアメディアが流すフェイクニュースや、関係者の情報を盗み出すサイバー攻撃の標的になっているという。なぜマクロン候補を攻撃するのか。EU支持者のマクロン候補より、反EU・反移民政策を掲げる極右政党「国民戦線」のルペン候補が大統領になるほうが都合がいいからだ。フェイクニュースやサイバー攻撃は選挙結果や国民投票に大きな影響を与えられる──英国のEU離脱や米大統領選からそのことを学び、同じ手法で今年行われるEU諸国の選挙に介入しようとしているのだろう。

 
 増大するフェイクニュースの負の影響力を中和すべく、IT企業やマスメディア側から対抗する動きも出てきた。その一つがフランス大統領選に関連したフェイクニュースや、その「元ネタ」になりそうな真偽の不確かな写真・動画、コメントなどを発見し、報道機関による情報の検証結果をウェブ上で公表する「CrossCheck」だ。

 まず、モニタリングツールを使ってネット上で流れている選挙関連の情報を初期段階で発見し、その情報をルモンド紙が2月に開始したデマ情報のデータベース「デコデックス」などと照合した上で、パリ国立ジャーナリスト養成所やパリ政治学院でジャーナリズムを専攻する学生たちの手で整理する。整理された情報はAFP通信、ルモンド、バズフィード、フランス・テレビジョンといったフランス内外の17の報道機関によって、真偽が確認され、CrossCheckのウェブサイトで公開される。検証済みの情報は参加する報道機関がそれぞれに記事や番組で活用していくとのこと。「パナマ文書」のように世界中の報道機関が自由に使えるデータベースを「ネット上に流れる情報の真贋(しんがん)」というテーマに絞って誰もが見られる形で提供するということだ。

 米大統領選でフェイクニュースを大量拡散させたとして批判の的となったフェイスブック社もこの動きに追随。既に米国やドイツで提供しているフェイクニュース対策をフランスでも実施することを発表した。

 もはや国際政治というトピックは、フェイクニュースの影響力抜きには語れない。あらゆる政権、マスメディア、IT企業が取り組むべき喫緊の課題がこの対策になっている。近い将来この波が日本にも押し寄せてくることは確実だ。

週刊朝日 2017月3月3日号