ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。大統領令を発端に、企業が発したSNSが経済活動に大きな影響をもたらした事例を紹介する。
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トランプ米大統領が1月27日に署名したイスラム圏7カ国の市民や移民・難民の入国を制限する大統領令は、多くの分断を米国にもたらし、政治だけでなく、企業活動にも大きな影響を与えている。
大統領令が出された翌1月28日、これに反対する人々が全米各地の国際空港に詰めかけ、デモを行った。トランプ大統領の地元ニューヨーク州のジョン・F・ケネディ国際空港でも数千人が集まり、抗議の声を上げた。これに呼応したのが、ニューヨークのタクシー運転手の労働組合だ。彼らは大統領令への抗議として「18時から19時の1時間、ジョン・F・ケネディ国際空港への送迎を停止する」と発表。ストライキという形で抗議の意思を示した。
ところが、タクシー運転手のストライキが発表された直後、ある企業がツイッターで大顰蹙(ひんしゅく)を買うことになる。ツイートしたのは、一般の人が自分の車を使って、アプリで依頼してきたお客さんを任意の場所まで送り届けるライド・シェア・サービス──いわゆる「白タク」のマッチングサービスを提供する「Uber」の公式アカウント。
「ジョン・F・ケネディ国際空港での割増運賃を停止しているため、混み合うことが予想されます。ご了承ください」
抗議デモ参加者やスト支持者たちは、このツイートを「Uberはタクシー運転手たちに歩調を合わせなかっただけでなく、わざわざスト中も平常営業しているとアナウンスすることでストを金もうけの機会にしている」と捉えたのだ。
一方で、大統領令への対応で株を上げたのがUberと同じくライド・シェア・サービスを提供するライバル企業の「Lyft」だ。同社は公式サイトのブログで大統領令への断固反対と、差し止めを求める訴訟を起こした人権団体「アメリカ自由人権協会」への100万ドルの寄付を表明。毅然(きぜん)とした対応が評価され、UberからLyftに乗り換える人が続出することとなった。同社は新たに10万人以上の顧客を獲得。大統領令への対応が両社の明暗を分けた。
こういう混乱期だからこそ、企業としてどのような倫理を持っているのかを公に表明することが重要になってくるのだろう。
※週刊朝日 2017年2月24日号