『ザ・コンプリート・トーキョー・コンサート1964』オスカー・ピーターソン・トリオ
『ザ・コンプリート・トーキョー・コンサート1964』オスカー・ピーターソン・トリオ
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The Complete Tokyo Concert 1964 / Oscar Peterson Trio (Jazz Lips)

 1964年に来日したモダン・ジャズ・ミュージシャン(グループ)はアーリー・ジャズのそれとほぼ同数の15人(グループ)に及んだ。モダン・ジャズ史を彩った巨人や大物も少なくないがライヴ作は3人(グループ)の3作にとどまり、和ジャズと見ていいチャーリー・マリアーノ(アルト)作を除くとオスカー・ピーターソン(ピアノ)作とマイルス・デイヴィス(トランペット)作だけになる。やはり、専属契約の壁は高かったのだろう。そんなことは関係ない?ジョージ・ルイス(クラリネット)はこの年も2作を残している。オスカーとマイルスの録音が許されたのは日米の関係者の仲が良好だったからだろうか。

 オスカーの来日はJ.A.T.P(連載第1回参照)以来、11年ぶりだった。この度はレイ・ブラウン(ベース)、エド・シグペン(ドラムス)を従えた、“黄金のトリオ”を率いての来日だ。来日当時、このトリオの活動は3年を超え、『ザ・トリオ』『ヴェリー・トール』『ウエスト・サイド・ストーリー』『ナイト・トレイン』(ヴァーヴ:以下、無記述は同じ)などの名盤を通じてその令名はファンに知れ渡り、待望の来日公演だったにちがいない。ライヴ作としてはシカゴ録音の『プット・オン・ア・ハッピー・フェイス』(1962年9月)以来となる。円熟したトリオの普段着の姿が知れる貴重な記録と言えよう。1974年?にLP2枚組『オスカー・ピーターソン・トリオ/イン・トーキョー1964』(パブロ)として発表され、1987年にCD2枚組『オスカー・ピーターソン・トリオ・イン・トーキョー1964』(同)として再発されたが、ともに廃盤だ。2008年に上掲のJazz Lips盤が再発された。

 トリオが盛大な拍手、喝采、口笛で迎えられる。ビル・エヴァンスのおかげでオスカー蔑視すらあった1969年にジャズを聴き始めた筆者は少々意外の念にうたれたが、当時の人気はまだまだどころか絶頂だったのかも。全16曲は『プレイズ・ポーギー・アンド・ベス』を含む1959年の2作、上記の4作を含む60年代の諸作、64年録音の『トリオ・プレイズ』、『イン・アクション』(MPS)から選ばれている。快調な準急系《リユニオン・ブルース》でスタート、心地よいスウィンガー《アット・ロング・ラスト・ラヴ》、テンポ・チェンジがやりすぎの感もある《クリフォードの想い出》を経て、ナイス・グルーヴァー《バグス・グルーヴ》へと続く。中盤は中だるみの感もあるが、バラード《アイ・ラヴズ・ユー・ポーギー》で盛り返し、躍動感溢れる《トゥナイト》、素敵なスウィンガー《フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン》《サムホエア》と続き、超高速でシグペンがアタフタする見世物?《ユアーズ・イズ・マイ・ハート・アローン》でクローズする。アンコール曲《自由への賛歌》は飛び切りのグルーヴと壮大で感動的ですらある賛歌が交互する一番の聴き物だ。この度はオスカーの目方に耐えかねて椅子が崩れ落ちる珍事件も起きず無事に終わった。

 ワンマン・トリオの典型にして直球一本槍ではない。構成に意が凝らされ単調と冗長を免れている。ライヴなのに整然としていて完璧とすら言っていい。一方、スリルに乏しく演奏の展開が読めるとも言えそうだ。しかし、それを言ってはおしまいで、オスカーとの愛は育まれない。完璧よりも多少の瑕を尊ぶファン心理はわからなくもないが、そもそも上手すぎるとかまとまりすぎているとかで非難されてはオスカーの立つ瀬がないだろう。トリオのワザに囚われると音を聴き逃す。虚心に接したいものだ。で、本作の3分の2は十分に好演または快演に値すると思う。普段着の寛ぎに満ちた好ライヴ盤にちがいない。なお、上掲盤にはコペンハーゲンでのライヴ録音8曲(1965年5月/ライムライト『エロクエンス』収録)が追加収録されている。小曽根真氏のお気に入りらしいが、同時収録はありがた迷惑な気も。ともあれ、帰米後にシグペンが抜け“黄金のトリオ”は消滅する。

【収録曲一覧】
[Disc 1]
1. Reunion Blues
2. At Long Last Love
3. I Remember Clifford
4. Bags’ Groove
5. Maidens Of Cadiz
6. Tangerine
7. Like Someone In Love
8. Satin Doll
9. Tricrotism
10. It Ain't Necessarily So
11. I Loves You Porgy

[Disc 2]
1. Tonight
2. Fly Me To The Moon
3. Somewhere
4. Yours Is My Heart Alone
5. Hymn To Freedom
6. Younger Than Springtime
7. Misty
8. Django
9. The Smudge
10. Autumn Leaves
11. Moanin'
12. Lover's Promenade
13. Children's Tune
パーソネル
Oscar Peterson (p), Ray Brown (b), Ed Thigpen(ds)

[Disc 1], [Disc 2] 1-5: Recorded At Sankei Hall, Tokyo, June 2, 1964
[Disc 2] 6-13: Recorded At Tivoli Gardens Concert Hall, Copenhagen, May 29, 1965