Kind of Blue/Miles Davis
Kind of Blue/Miles Davis
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 一日一枚ジャズCDを聴いたら、一年で365枚、10年だと…、うるう年とかがあって少し計算がややこしいが、だいたい3,652枚のCDを聴ける計算になる。

 いまジャズストリートを読んでるアナタの年齢が、仮に30歳だとしよう。あと50年生きるとして、50年間ずつCDを聴き続けたなら、18,262枚。およそ2万枚弱である。

 とすると、25年で9,131枚、約1万枚弱という計算になる。

「なあんだ、まだまだたくさん聴けるじゃないか」と安心している場合ではない。これはあくまで、毎日違うCDを一枚ずつ聴いたら何万枚聴けますよという話であって、同じCDを繰り返し聴くという発想は入ってない。

 たとえば、マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』、あと何回聴きますか?もう死ぬまで聴かないってことはないでしょう。2回?3回?5回?いや、10回以上は聴くでしょう。じゃあ、ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』は?ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビー』は??

 そんなふうに考えたら、聴ける枚数は手持ちの名盤の数に応じて、ぐーっと減ってくるので、新しいCDをジャンジャン買ってる場合じゃなくなってくる。

 手持ちのCDが5,000枚の人は、あと50年生きるとして、全部のCDを毎日一枚ずつ聴くなら、それぞれたった4回しか聴けないことになる。どうですか、けっこうショッキングな話でしょう。

 こうなると、もう、しょうもないCDを買って聴くのは時間のムダというもの。残り少ない音楽鑑賞の時間、できるだけ良い演奏のものを、できるだけ良い音で、そして真剣に聴かないと損である。

 CDやレコードなどの音源は、金を出せば、たいていのものは手に入るけれども、音楽鑑賞の時間はそうはいかない。速読で本を読むのと違って、速聴きなんてできない。音楽を身体に入れるには、必ず一定の時間がかかるのだ。

 そうすると、必然的に良い音で聴きたくなる。オーディオ装置に何百万もかける人、やれリマスターだ、高音質CDだといって再発されると、持っているのに同じCDを買ってしまう人、気持ちはよーくわかる。

 奥さんに、「なによ、このCD、持ってるじゃないの!もったいないわねえ」と言われても、もったいないのは時間のほうである。残りわずかな音楽人生に代わる価値などあるものか。クレジットカードのCMじゃないが、「音楽鑑賞の時間=プライスレス」だ。

 オーディオも店頭で聴いてみて、できるだけ音の良いのを買いましょう。前々回のバルネ・ウィランの話でも触れたが、変に自我を通さず、店員さんの意見もよく聴いて、できれば自宅に来てセッティングまでしてくれるような専門店で買いたい。

 それほどオーディオに予算が割けない場合には、一体型のラジカセやセット物でも音の良いのがあるので、必ず試聴して根気良く納得できる音の装置を手に入れてほしい。

 また、アップル社のiPodや、ソニーのウォークマンのような携帯プレーヤーも、最近はかなり音質が良くなってるのでお薦めだ。通勤などの移動中や、運動しながら、そうじしながら、あるいはベッドのなかでも聴けるから、音楽を聴く時間の拡大にも一役買ってくれる。

 イヤホンで聴くと、外部の音響が再生音に干渉しにくいので、音質的にも有利。チューニングに失敗したコンポーネントと違い、これらの携帯プレーヤーはあまり音楽を「間違わない」。

 貴重な時間を割いて、「間違った」音で聴くことほど、ばからしいことはない。そのばかげたことを毎日やってるわたしが言うのも何ですが…。

【収録曲一覧】
1. So What
2. Freddie Freeloader
3. Blue In Green
4. All Blues
5. Flamenco Sketches
6. Flamenco Sketches (Alternate Take)

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