■来日作「ラーマ家の東方三博士の礼拝」の見どころ
イエスの誕生を祝うために東方から三博士が訪れたという新約聖書を題材にした作品ですが、これは、いわばバブルの象徴的な絵画。構図としては、聖母に視線を集めるように描かれているはずの宗教画でありながら、実際には、手前の華やかな人々に目を奪われませんか? 時代を牽引(けんいん)したメディチ家3代を全員描いた、きらびやかなおしゃれスナップなのです。
右端手前の“カメラ目線”の人物が、ボッティチェリ。画家が作品に自画像を紛れ込ませること自体は、当時のはやりでもありましたが、自分がいちばんおしゃれな服を着て誰よりも目立っているのが彼らしい(笑)。ちなみに、ダ・ヴィンチによると、ボッティチェリは酒飲みのデブっちょだそうです。ずいぶんイメージが違いますね。
左端手前の白いタイツが、最大のパトロンであり友人でもあった、時代の寵児ロレンツォ・ディ・メディチ。特徴的な顔を頑張ってハンサムに描いています。
画面の右側で伏し目がちの横顔をみせている黒髪の人物が、ロレンツォの弟ジュリアーノ。美男子だったと言われていますから、まさにこんな感じだったのかも。
聖母の正面にひざまずきイエスに手をのばそうとしているのは、ロレンツォの祖父であるメディチ家の立役者コジモ。
その手前、赤い服がひときわ目立っているのはコジモの長男ピエロ、そのすぐ右が次男ジョヴァンニ。
右端に並ぶ人々のなか、こちらに顔を向けている青い服の人物がラーマ。依頼主を男前に描くのも忘れないのはさすがです。
■ボッティチェリ展
4月3日(日)まで
東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36)
http://botticelli.jp
ヤマザキマリ
1967年東京都生まれ。84年、17歳で単身イタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、美術史と油絵を学ぶ。97年漫画家デビュー。古代ローマの浴場設計技師を主人公に描いた「テルマエ・ロマエ」が空前のヒットとなり、2010年、マンガ大賞、手塚治虫文化賞短編賞を受賞。ほか漫画作品に『プリニウス』(とり・みきと共著)、『スティーブ・ジョブズ』など、著書に『ヤマザキマリのリスボン日記』『国境のない生き方』『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』などがある
※週刊朝日 2016年3月11日号に加筆修正