「民主とは対等合併ではないから、旧みんな系など不満分子は多い。江田(憲司・前代表)さんもそうで、新党のネーミングで民主との協議を担うことになったから、またゴタゴタする。選挙区調整も手つかずのままだ」
野党の体たらくを尻目に、着々と進む安倍首相の選挙シナリオ。ところが、その戦略を根底から覆す組織がある。正組合員と准組合員を合わせて1千万人以上の組織で、自民党の大票田である農協だ。
2月下旬、都内某所で全国各地の地域農協幹部ら約50人が集まる勉強会が開かれた。テーマはTPP。講師として招かれた海外の専門家は、TPPが発効すれば、農業だけでなく医療や金融にも大きな変化が起きると解説。その会の最後で、ある地域農協の組合長が発言を促された。その言葉は、怒気を帯びていた。
「農業団体から(参院選で自民党の)候補者を出すなんて愚かだ。戦いはこれからだ。我々は、組合員にお願いし、自民党議員を減らさないといけない」
農協は、参院選の全国比例区で組織内候補を1人擁立するが、それについても「推薦の取り下げを求めていく」(組合長)という。
安倍政権による“農家いじめ”とも思える農政改革に、農協組合員から怒りの声が噴出している。さらに、自民党議員の稚拙な発言と行動の数々も目立つ。
TPP交渉の旗振り役だった甘利明氏は、“賄賂疑惑”で辞任。ドタバタの中で、失言癖のある石原伸晃氏がTPP担当相に選ばれたが、甘利氏からの引き継ぎは電話でわずか20分だったという。ある省庁の官僚は、その“ド素人”ぶりに不安を募らせる。
「TPP政府対策本部でまとめ役をしないといけないのに、務まるのか……」
支える高鳥修一内閣府副大臣も情けない。高鳥氏は過去にTPPについて「平成の売国」と述べるほどの反対派だった。それが副大臣就任で推進派に転向。甘利氏の代理でニュージーランドの署名式に参加した際は、署名式後に現地の警備体制を写真付きでブログに暴露し、厳重注意を受けた。農協幹部は、あきれている。
「自民党の政治家は、農家を『既得権益』と言うが、能天気に世襲で政治家をやっている人間こそが日本最大の既得権益者じゃないか」(本誌取材班 西岡千史、亀井洋志/上垣喜寛)
※週刊朝日 2016年3月11日号