秋の「京都非公開文化財特別公開」で信行寺の天井画が一般に初公開された。若冲(じゃくちゅう)が描いた花々との一期一会が楽しめる。
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伊藤若冲(1716~1800)。江戸中期に活躍した、この奇想の画家が描いた花卉(かき)図が、信行寺(京都市左京区)で11月8日まで公開中だ。
本堂の天井を見上げると、計168個の正方形の仕切りの中の円一つひとつに、牡丹、菊、梅、朝顔などが花開く。中には向日葵(ひまわり)や仙人掌(さぼてん)といった、南蛮から渡来した当時の珍植物も。
濃密な筆致で画面を埋め尽くす画風で知られる若冲だが、この花卉図からは柔らかな安らぎが感じられる。狂気を孕(はら)む画家の、執着から解き放たれた最晩年の境地が垣間見える作品だ。
「穏やかな雰囲気がありますが、天井画をなんとしても描き上げようという若冲の強い思いのようなものは感じますね」と信行寺住職の本多孝昭さん(58)。
2016年、若冲は生誕300年を迎える。本多住職は節目を前に、今回限りでの一般公開を決めたという。貴重な機会に、実物をご覧いただきたい。
※週刊朝日 2015年11月13日号