戦後日本を代表する書店のひとつが姿を消した。7月20日に閉店したリブロ池袋本店だ。 その発信力は、伝説となっている。リブロ池袋の1店舗のみで、浅田彰の『構造と力』(勁草書房)をいち早く何百冊も売り上げ、ベストセラーのきっかけを作った。人文・思想書の流行を牽引(けんいん)する場だった。そして突然知らされた閉店の告知。現役書店員はどう受け止めたのか。インタビュアー・木村俊介氏がリブロ池袋本店マネジャーの辻山良雄さん(42)に話を聞いた。
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閉店の理由は、報道で公表されているように「西武百貨店との契約が満期に達し、その契約更新がなされなかったこと」です。うちとしては契約を更新するよう働きかけたのですが。場所などは未定ですが、今後、創業の地であるこの池袋で、新たな店舗を探しております。
閉店直前の店では、さまざまな催しをしました。6月28日には、詩人の谷川俊太郎さんにゲリラ朗読ライブをしていただきました。事前に告知したら人が来すぎるであろう、この現代詩のスペースで。
生まれつつある新しいものを大きく取り上げてきた、この店らしいイベントだったなと思っているんです。リブロの産みの親でもある西武百貨店の代表だった堤清二(辻井喬)も詩人で、9年前までは彼と思潮社(詩の本専門の出版社)で作ったショップ<ぽえむ・ぱろうる>がうちには長らくありましたから。谷川さんが朗読されたのも、閉店前に1カ月半だけ復活させた、この<ぽえむ・ぱろうる>のスペースでだったんです。
私の入社は1997年です。まだネット検索などは一般的ではなく、先輩からは昔ながらのリブロ的な選書のやり方を学びました。扱う本の目録をしっかり見て本を覚えることがかなり重要視されていましたね。本の内容や広がりを覚えた後に、予想外の売れ行きがあれば理由を考え抜く。
他店に出かけて見てきたものの分量が、書店員としての展示の引き出しの多さにつながる、と教えられもしました。先輩方はそうして本を集めてきたのでしょう。
今回、リブロ池袋本店の創業40年でなおかつ閉店ということもあり、OBにお薦めの本とリブロへの言葉をいただき展示をしました。その際のやりとりでも、同じ店というバトンを引き継いでいるんだなと感じました。そうした言葉は他店の書店員や本好きな方にも通じる面があるようで、展示の前で涙ぐんでいる方も何回も見かけましたね。
私は神戸出身。地元のジュンク堂のような書店しか知らなかった私が進学で上京したのは92年でしたが、この池袋リブロを訪れて驚きました。美術館とつながっている世界観。本が整然と並んでいるのではなく、空間や本どうしのつながりで見せる展開。今ではどの書店でも当たり前のそんな工夫が、若い自分には刺激的でした。本って格好良いんだと教えてくれた。商業空間の中に文化をという堤清二の強い思いを感じさせられました。本を格好良いものとして見せ、人の記憶に残る仕事をしたことが、リブロの残したものだと思っています。
※週刊朝日 2015年8月28日号