お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹の初小説『火花』(文藝春秋)が、すさまじい売れ行きをみせている。
お笑い芸人の先輩後輩が、笑いや人生を考え議論する日々を描いた同小説は「文學界」2月号(文藝春秋)で発表。発行部数1万部は、創刊以来初という増刷を重ね4万部に。それを単行本化したところ、重版が早々に決まり、累計部数は35万部となっている。
12日に紀伊國屋書店新宿本店で行われた刊行記念会見では記者から、
「すごい売れ行きですね。先生とお呼びしましょうか」
などと言われると、
「先生と呼ばれても真に受けることはないですよ」
と、持ち前のゆっくりした口調と控えめな笑顔で否定したものの、うれしさは隠し切れない。
「先生になった気分はわからないけれど、書店に並んでうれしい。印税の使い道? 終身雇用の会社ではないので退職金代わりに貯金しようかな。でもオルゴールもほしいな。『エリーゼのために』。癒やされるでしょ?」
同日は、サインの入った本を300人のファンに手渡すイベントも開催されたが、20代、30代の女性の多いこと多いこと。
芸人のなかでも本好き、特に太宰治の著作好きで知られている又吉。長身で格好良かった太宰は女性にとてもモテたと言われているが、又吉も負けず劣らずの人気ぶりだろう。
イベントに来ていた26歳の女性は、
「大学生の頃からファンです。もう、全てが好き。洋服のセンスの良さ、人柄、お笑い、お笑い以外も才能にあふれていますし。今日はやっと『火花』が読める。楽しみです」
と、メロメロだ。21歳の女性は、又吉の文章に惚れてファンになった。
「夏目漱石など、いろんな本を読んできましたが、『火花』ほどハマった本はありません。仕事で絶望的になっていたときに読んで勇気をもらいました。言葉のチョイスがいいし、魂がこもっている」
さて、この『火花』、どこまで部数を伸ばせるか。出版業界からは早くも、「太宰の取れなかった芥川賞、もしくは直木賞候補となるのでは?」との声も聞こえてくる。当人は「これからも中心はお笑い」と至って謙虚だが、世間は放っておかないだろう。「又吉先生」人気が、火花として散るか散らないかは、これから決まる。
※週刊朝日 2015年3月27日号