65歳以上の運転免許保有者は昨年末で約1534万人いる。一方、認知症になる高齢者は7人に1人にのぼる。単純に計算すれば、認知症の高齢ドライバーは約230万人に達するのだ。

 ところで認知症についての悩みや相談は市区町村が設置する「地域包括支援センター」に寄せられることが多い。だが「車の運転については、どう対処していいかわからない」と明かすセンターの職員がいる。厚生労働省は「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」を実施しているが、このなかには車の運転対策は盛り込まれず、省庁間の連携を目指した会議も始まったばかり。つまり“野放し状態”が続いている。

 こうした状況を民間の力で変えようとしているのがNPO法人「高齢者安全運転支援研究会」(東京都千代田区)だ。事務局の並木靖幸さんが言う。

「地方では、車の運転中に行方知れずになる『車での徘徊』は日常茶飯事といわれます。運転免許の発行は警察の管轄で、どこの地域包括支援センターも対応しきれないとも聞いています。高齢者人口が増える今、認知症の人の運転対策は急務なんです」

 同研究会は2012年に設立された。「どこに相談に行ったらいいのかわからない」といった悩みを抱える人たちのために、セミナーなどに講師の派遣をしている。11月29日には千葉県で、同研究会会員で、月刊「JAF Mate」の鳥塚俊洋編集長を講師に招きセミナーが開催された。鳥塚さんが言う。

「高齢ドライバーの事故原因を調べると、アクセルとブレーキの踏み間違い等による『運転操作ミス』がワースト1位で、2位は『逆走』。高齢ドライバーが起こす自動車事故は増えていますが、なかでも認知症の人の事故が問題になっています」

 警察庁が12年8月までの2年間、高速道路で起きた逆走447件を調べたところ、運転者の約7割が65歳以上だった。認知症だった、あるいは認知症と疑われたケースは約4割を占めたという。

 重大事故も起きている。

 長野県で13年8月、高速道路で追い越し車線を逆走した乗用車が大型バイクと正面衝突し、バイクに乗っていた男性(当時56)が死亡した。乗用車を運転していた女性(当時67)が自動車運転過失致死の疑いで現行犯逮捕されたが、「どのように高速に入ったのかわからない」と繰り返し、逆走の理由も説明できなかった。県警の調べでは女性は認知症で通院し薬を服用していたが、11年に免許を更新、日常的に運転していたという。

 人身事故を起こした場合は、刑法の自動車運転過失致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われる可能性があり、民事でも損害賠償責任を問われる。

週刊朝日  2014年12月26日号より抜粋