文筆家の北原みのり氏は、国会中継を見ていて吠えたい気持ちになったという。その理由は…。
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銀行の窓口で並んでいたら、テレビで国会中継が流れていた。ちょうど、「慰安婦」についての質問が行われていて、しかもボリュームが大きくて、銀行中に「慰安婦が性奴隷というのは、捏造です」等と言っている男性議員の声が響き渡り、いたたまれない思いになった。しかもその調子が、どこか晴れやかで、勢いがあり、誇り高きニッポン!という気合に満ちてたから余計に。
8月、朝日新聞は「従軍慰安婦」に関する過去の記事を検証し、済州島で女性を強制連行したという「吉田証言」が虚偽であることを認めた。あの検証記事自体、あれから「慰安婦」について見聞きしない日はないほど、大変な騒動になっている。
私自身はあの記事を高く評価している。「慰安婦問題は女性の人権問題だ」と明確にしていたから。まるで朝日新聞が「日本の誇り」を傷つけたように語りたがる人は少なくないけれど、「慰安婦問題」とは国家の誇りの話ではなく、女の性が蹂躙(じゅうりん)されてきたこと、女性への暴力にどう私たちが向き合うかが問われているのだ。
だいたい「吉田証言」は90年代からその信憑性が疑われていて、「河野談話」に証言は反映されていない。そのことは安倍総理自身が先日、国会で認めたこと。
それなのに、「吉田証言」が嘘ならば、「慰安婦問題」もなかった、と言いたがる人が後を絶たないのはなぜなのだろう。甘言や脅しで見知らぬ土地に連れていかれ「労働させられた」その状況を、「奴隷」と表現することが、なぜ「捏造」となるのだろう?
“僕たち日本人はお金を払ってセックスしたんだから! 女はお金のために働いたんだから! 合法的な買春を、奴隷制度と一緒にするな! これは脱法買春じゃない!”ということを「国際社会」に向かって言うことが、どれだけみっともないことか。日本がいかに男(と、そのペニス)に都合良い社会で、未だに買春大国で、女を暴力的に「活用」してきたか、証明しているようなもんでしょう。銀行で、吠えたい気持ちを抑えながら、私は税金をものすっごい渋々支払いました。
※週刊朝日 2014年10月24日号