自分の意に反して、つきまとわれ、中傷される「ストーカー行為」。恋愛関係のもつれが発端になるとのイメージが根強いせいか、若者の問題ととらえられがちだが、ここ数年、高齢者によるストーカー事件が急増している。

 ストーカー被害の相談に乗るNPO「ヒューマニティ」(東京都)理事長でカウンセラーの小早川明子さんも、「高齢者からストーカーされているとの相談は急増している」と話す。小早川さんがこれまで扱った事例は、加害者が男性のケースが多く、被害者は(1)30代や40代など年下の若い女性(2)同じ地域の同年代の女性、の二つに大別される。

 まず(1)について。

 有名企業の役職に就く男性(63)は独身で仕事一筋のモーレツ社員。ある日、部下の女性(45)から「夫とうまくいっていない」と相談された。食事などをしながら親身になって聴いているうちに、男性が恋心を抱くように。

 その後、女性は夫との関係が修復。そのことを告げると、男性の態度が豹変した。

離婚するんじゃなかったのか?」
「俺が今までやってやったことはなんだったんだ!?」

 その激高に怯えた女性が連絡を拒んだことが、火に油を注いだ。男性は、女性の子どもが通う学校に「お宅の生徒の親に、ふしだらな人がいる」と吹聴。男性は警察から口頭注意を受けるも、「俺の何が間違っている!」と逆ギレ。困り果てた女性が、小早川さんのもとに相談に訪れた。

「これまで仕事ばかりで恋愛らしい恋愛をしてこなかったため、『頼られる=愛されている』と勘違いしてしまった。既婚者でも妻との関係が冷え切っている場合、頼りにされたり優しくされたりするだけで、相手に過度に期待してしまうんです」

 小早川さんは、ストーカー問題を根本的に解決するために加害者500人以上と直接話してきたが、高齢者の場合、「残りの人生でやり残したことは恋愛だけ」と考えている人が少なくないという。さらに現役時代、会社でそれなりの地位にいた人や公務員などのお堅い職業の人は周りからペコペコされることに慣れていて、「自分は拒まれている」と気づかない。

 続いて、同じ地域に住む自分と同年代にストーカー行為をする(2)のケースだ。

 定年して家族から邪魔者扱いされていた男性(69)は、思い切って地域の高齢者の集まりに顔を出した。だが元公務員というプライドからか、上手に溶け込めない。そんなとき、一人の女性から「初めての方?」と声をかけられた。

 夫と死別したその女性は明るく世話焼きで、みんなと打ち解けられるよう何かと気を配ってくれた。「ゴルフを習いたい」という女性に、男性は練習場に連れていき、個人レッスン。やがて2人で食事やカラオケへ。男性は一方的に熱を上げ、妻と離婚し、女性との結婚を考えるようになった。

 ある日、男性はカラオケボックスで、女性が他の高齢男性といる場面に鉢合わせた。驚き、問い詰める男性に、女性は呆れ顔で言い放った。

「別にあなたと付き合っている訳じゃないわよ!」

 男性は逆上し、その後カラオケボックスで待ち伏せ、女性が現れると声を荒らげて責め立てた。さらに地域の高齢者に「あの女はあばずれ」などの中傷メールをばらまいた。

 小早川さんが言う。

「熱しやすく、拒まれると一転、一気に怒りに火がつく。感情の沸点が低いのが高齢者ストーカーの特徴なんです」

 自分や相手に家庭があっても「愛のない妻とは別れて一緒になる」とすぐに結婚に結びつけるケースが多い。ひとりよがりの思い込みが暴走につながる様子がうかがえる。

週刊朝日  2014年10月10日号より抜粋