認知症予防が期待できる栄養素が、ポリフェノールだ。植物が光合成をするときに作りだす色素や苦みの成分で、野菜や果物の多くに含まれている。その種類は4千種類以上あるともいわれ、食べ物によって含まれるポリフェノールの種類も異なる。
そもそもなぜ認知症予防にポリフェノールがいいのか。東京都医学総合研究所(世田谷区)認知症・高次脳機能研究分野長の長谷川成人(まさと)氏は、その仕組みをこう説明する。
「アルツハイマー型認知症は、加齢により脳の中に不要なたんぱくが蓄積することが原因で起きると言われています。それが、アミロイドβ(ベータ)とタウです。これらはがん細胞のように広がっていく性質があり、とくにタウの蓄積が、認知症の症状につながることがわかっています。この蓄積や広がりを抑えられれば、認知機能の低下や症状を防ぐことができ、その働きをポリフェノールが補っていると考えられるのです」
長谷川氏らは、人工的に作ったこれらのたんぱくに、ポリフェノールを混ぜて、蓄積や広がりの変化をみる実験を実施している。実験の対象は、アミロイドβやタウに加え、レビー小体型認知症(アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症に続く、患者数の多い認知症)の原因になるα(アルファ)シヌクレインだ。
そのなかで、いくつかのポリフェノールが、この蓄積を抑えることを発見したという。
「興味深いのは、ポリフェノールのなかにも、効果の高いものと効果のないものがあるということです」(長谷川氏)
そして、今回の結果から、三つのたんぱくすべての蓄積を抑える食品とポリフェノールが明らかになった。それは、緑茶のエピガロカテキン・ガレート、赤ワインや果物のミリセチン、紅茶のテアフラビン、ナスのデルフィニジンだ。
「これは試験管のなかの実験による結果ですが、実際に人を対象にした疫学研究の結果ともおおむね一致しています」(同)
緑茶からみてみよう。
緑茶の認知症予防効果については、国内で報告されている。
たとえば、金沢大の研究では、石川県七尾市に住む60歳以上の男女490人について、約5年にわたって認知症の発症率を調査。緑茶を毎日飲む習慣がある人は、飲まない人に比べ、認知症の発症や認知機能の低下リスクが3分の1だった。
赤ワインに含まれるミリセチンは、原料となるブドウの皮や種に豊富に含まれている。ワインを多く消費するフランスでは、毎日グラス3~4杯飲んでいる人のアルツハイマー型認知症の発症率が、全く飲まない人の4分の1にとどまっていたという報告がある。
ただ、ワインはアルコールなので、飲みすぎれば肝臓などに病気をもたらすほか、アルコール依存症も心配だ。それに、そもそも飲めない人もいる。長谷川氏は「ミリセチンはもともと果物や野菜に含まれている成分なので、果物ジュースや野菜ジュースもワインの代わりになります」と言う。
米・南フロリダ大の研究チームの報告では、コップ1杯の果物・野菜ジュースを週に最低3回飲む人は、週1回未満の人に比べて、アルツハイマー型認知症の発症リスクが75%も低かったという。
長谷川氏の研究は試験管内の実験で、実際に食品やサプリメントでポリフェノールをとった場合、どの程度が脳に到達し、たんぱくの蓄積を抑える働きをしているかまではわかっていない。ただ、ポリフェノールには抗酸化作用があり、細胞を活性酸素から守るという働きもある。認知症と深いかかわりのある、生活習慣病の予防にも有効だ。
「ポリフェノールは1日で代謝されてしまうので、毎日、積極的にお茶や野菜、果物などをとることをお勧めします」(長谷川氏)
※週刊朝日 2014年7月11日号より抜粋