放送大教授(政治学)の御厨貴氏と東大教授(社会経済学)松原隆一郎氏が対談し、今国会の争点になった集団的自衛権の行使に関して、自衛隊の「戦死」論議が必要だったという。
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御厨:安倍さんが絶対に口にしないことがあって、行使容認され日本の自衛隊が出動したら、向こうから攻撃されて死人が出るだろうということ。この死人が出るっていう議論を絶対に安倍さんはしない。
松原:ひとことも触れていないですね。
御厨:野党もたまに追及するんだけど、安倍さんは一切言わない。つまり、勝負してないんです。本当に勝負するんだったら、人が死にますっていうことをきちんと言わなきゃいけない。逃げているんですよ。ここが最も弱い。
松原:それは通したいから隠している?
御厨:そうだと思う。
松原:万が一、自衛隊員が亡くなったりすれば大変な話で、靖国神社に祀(まつ)るのかという議論もしておかなければならない。その話は手付かずです。
御厨:詰めてないね。だから情念なんですよ。
松原:泥縄でやってはいけない大きな問題なのに、それを詰めないのは本当にまずい。
御厨:後藤田正晴元官房長官が僕に言ってましたけれど、当時の中曽根康弘首相(96)が掃海艇を出すか出さないかっていうときに、最後に後藤田さんが詰め寄って、「死人が出ますよ。あなたそれで大丈夫ですか」と言ったら、さすがに中曽根首相はそうか、と言って引いたそうです。この間も、野中広務元官房長官(88)が「自民党の中からそういう声が出ないのはおかしい」と嘆いていましたけど、戦闘状態で人が死ぬってことに関してリアリティーがないのよ。どこかバーチャルでやっているという感覚で、そこには「死生観」が全く感じられない。
松原:人が死ぬっていうのはわかると思うんですけど、じゃあ政治家として自分がどう対応してどう責任を取ることになるのか、イメージがわかないんじゃないですか。自覚と責任感が足りないような気がします。
※週刊朝日 2014年7月11日号より抜粋