ドラマ評論家の成馬零一氏がいま話題の番組『テラスハウス』を批評した。
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男女6人がオシャレなシェアハウスで共同生活を送るなかで起きる人間模様を追いかけた毎週月曜日午後11時からの『テラスハウス』(フジテレビ系)は、若者に人気がある恋愛バラエティです。
毎回、「番組が用意したのは素敵なお家と素敵な車だけです。台本は一切ございません」というナレーションが流れるのですが、こういったドキュメンタリータッチの番組は「リアリティショー」と呼ばれ、フィクションにはない生々しさが魅力です。ですが、この『テラスハウス』がすごいのは、「まったくリアリティが感じられないところ」だと僕は思っています。すべてがオシャレな音楽と映像と恋愛で塗り固められていて、まるで異国の出来事のよう。それゆえヤラセ疑惑が絶えないのですが、虚実入り交じった“胡散(うさん)臭さ”も魅力になっています。
番組は、6人の男女の姿を撮影した「本編」と、YOU・トリンドル玲奈・山里亮太ら芸能人が本編にコメントを入れる「解説パート」の二部構成になっていて、本編にリアルタイムで芸能人がツッコミを入れる副音声も大人気です。このツッコミがあることによって、オシャレ空間が舞台の内容に素直に共感できない人でも半分馬鹿にしながら楽しむことができる。実にうまい仕掛けだと感心させられます。
住人たちの卒業と加入が定期的にあるのも特徴で、過去にはAKB48の北原里英、モデルの今井華、グラビアアイドルの筧美和子らも出演していました。
今、注目されているのは登場する度に「トレンディ劇場」と呼ばれる島袋聖南。彼女は元々テラスハウスの住人で、「海外でモデルになる」と言って一旦は卒業したのですが、成果を出せずに帰ってきた出戻り組です。今はモデル事務所も解雇され、フリーターとして暮らしています。そこへ同じく元住人のサーファー、湯川正人が訪ねてきて、昔から気があった聖南に猛アプローチをかけているというのが現在の状況。この恋愛の行方と、聖南の口から飛び出す「その場しのぎの男には、なるな」「巷の女とはいっしょにすんな」といった発言が面白く、今や番組は彼女を中心に回っていると言っても過言ではありません。
僕もツッコミを入れながら毎回番組を楽しんでいるのですが、時々無性に悔しくなります。
現在、恋愛ドラマは“受難の時代”と言われています。『最高の離婚』『失恋ショコラティエ』など面白い作品もあるのですが、かつての『東京ラブストーリー』や『ロングバケーション』のように、多くの女性視聴者を巻き込む吸引力は、残念ながらありません。
一方、『テラスハウス』は、ツッコミどころ満載のゆるい作りです。しかし多くの若者を引きつけるのは、最近の恋愛ドラマが失ってしまった「恋とオシャレが世界を変える」というトレンディの魔法が宿っているからではないかと思います。
この魔法が偶然宿ったのか、計算されたものなのかは、わかりません。しかし国内映像の表現において、ここまでキラキラとしたものは他にはないということだけは確かです。
果たしてドラマはトレンディの魔法を再び取り戻せるのでしょうか。『テラスハウス』が業界関係者に突きつけるものは意外と重たいのです。
※週刊朝日 2014年6月20日号
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