メニュー表示とは異なる食材を使う偽装問題が次々に発覚している。ジャーナリストの田原総一朗氏は、食材偽装の真相についてこう話す。

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 全国のホテルや大手百貨店で、あきれるほどの食材の偽装が氾濫している。阪急阪神ホテルズや札幌グランドホテル、横浜の老舗(しにせ)ホテルニューグランドなど多くのホテル、百貨店では高島屋、三越伊勢丹、そごう・西武、大丸松坂屋、小田急など大手の有名店の名前が並ぶ。まるで、ホテルや百貨店では食材を偽装するのが常識となっているかのようである。

 たとえば伊勢丹の中国料理店で、「大正エビ」や「芝エビ」と表示されていたのだが、実は安価なバナメイエビだった。高島屋の日本橋店で「車海老のテリーヌ」と表示されていたものは、ブラックタイガーであった。

 あるいは仙台三越の喫茶店でフランス産とうたっていた栗の甘露煮が、韓国産であった。オーストラリア産の牛肉も、和牛と表示していた例が多い。

 よくわからないのは、宮崎県産と表示されていた豚肉が実際は岩手県産であったり、阿波牛と表示されていたのが、実は鹿児島県産だったりすることだ。

 このように食材の偽装が全国的に氾濫しているのを見ると、ホテルや百貨店は客をだますのが当たり前で、食材の表示はほとんどが偽装、つまりインチキではないのかと思わざるをえなくなってくる。大手ホテルや百貨店そのものが、信用を失ってしまうことになるのだ。

 なぜホテルや百貨店は、わざわざ顧客の信用を失わせることを、当たり前のようにおこなってきたのだろうか。

 ホテルや百貨店などの食材の事情に詳しい人物は、

「それほど日本の食材の業界が甘くていい加減なんです。偽装してもばれないと思っていた」

 などと説明する。ただ、いやしくも、ホテルも百貨店もサービス産業である。そしてサービス産業というのは、顧客から信用されることを第一に考えるはずである。顧客はだまされたとわかれば、二度とそのホテルや百貨店を利用することはないだろう。つまり、客の信用を失えばホテルも百貨店も衰退するはずで、そんなことはどの経営者もわかっていたに違いない。

 偽装表示をおこなっていた一部のホテルや百貨店は、「メニュー表記は取引業者を信頼して、あらためて確認しなかった」などと説明している。だが、ホテルや百貨店に食材を納入している業者、つまり下請けの食材業者に取材すると、まったく異なる説明が返ってきた。

「実は近年、食材の原価が上がってきているのです。それなのに、ホテルや百貨店はデフレ下の競争で、年ごとに『価格を下げよ、下げよ』と我々に求めてくる。現に、納入価格は年々下がっています。最近は円安のせいで、輸入品の原価がさらに上がってきた。食材の原価が上がっているのに、無理やり安い価格で納入しなければならない。しかし品質を落とすことは認められない。こうしたどうしようもない矛盾の中で、我々はどう生きればよいというのでしょうか。それは、産地を偽るのは悪いことに決まっているのですがね」

 食材偽装の氾濫は業界のずさんさ、いい加減さのためというより、むしろ下請け業者の悲劇的な苦境の産物だったのである。それにしても、ホテルや百貨店はこうした事情がわかっているはずではないのか。

週刊朝日 2013年11月22日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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