「鳥取連続不審死事件」で2件の強盗殺人罪などに問われた上田(うえた)美由紀被告(38)に対し、鳥取地裁は12月4日、死刑判決を言い渡した。裁判の争点となったのは上田被告と同居男性A氏との力関係。これについて、コラムニストの北原みのり氏はこう綴る。

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 裁判長は、「宣告にはかなり時間がかかります」と前置きし、判決文を読み始めた。裁判で大きく争われたのは、美由紀とA氏の力関係、であった。

 A氏は2007年12月に美由紀の働くスナックで客として美由紀と出会った。2人はすぐに肉体関係を結び、4カ月後に美由紀は「三つ子を妊娠した」と言い、それを機にA氏は仕事と家族も捨てるように、美由紀と5人の子どもたちと暮らしはじめている。誰に聞いてもA氏は「いい人」だった。穏やかで、感じのいい優秀な車の営業マンだ。

 検事は、美由紀とA氏の力関係を「美由紀が上だった」と言った。大量の洗濯をさせたり、毎日のように子どもの送り迎えなどをさせたりと、A氏をいいように「使い」、時には頭をこづいたりすることもあった、と。

 A氏は、美由紀の妊娠を、逮捕されるまで信じていたという。実際には妊娠自体が嘘だったのだが、臨月にA氏が、子どもの事を聞くと、美由紀は「子どもを小さくする薬を飲んで堕(お)ろした」と言ったという。科学の進歩でそういうこともあるのかと、A氏はそれ以上は問い詰めなかった。40を過ぎた大人が、「子どもを小さくする薬」というものを信じるのか、という驚きもあるが、裁判長は、「力関係で被告人の方が上であり」「相手の弱みにつけこんで精神的に従属させ」「正常な思考が困難」だったとA氏に理解を寄せ、「2人は対等な関係だった」という弁護側の主張を、全面的に退けた。

週刊朝日 2012年12月21日号より抜粋