下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「アジアはいつも薄曇り」(隔週)、「タビノート」(毎月)
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「アジアはいつも薄曇り」(隔週)、「タビノート」(毎月)
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ビール1.5リットルのペットボトル。ビールコーナーでは幅を利かせている
ビール1.5リットルのペットボトル。ビールコーナーでは幅を利かせている

「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第17回は「ロシアの飲酒事情」について。

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 大酒飲みがごろごろといる印象が強いロシア。その飲酒事情が少し変わってきたらしい。WHOの報告では、2003年から2016年にかけ、アルコールの摂取量が約40パーセント減少したとか。

 夜11時以降の酒類販売禁止や酒類の値上げといったプーチン政権の政策が効果をあげているとみる向きが多い。しかし……。

 3年ほど前、シベリア鉄道に乗った。いまのシベリア鉄道は全面禁酒。ホームの売店でも酒類は売られていない。列車がイルクーツク駅に着いた。同じコンパートメントの男性とホームの売店に。彼がなにやらいうと、店員は後ろのドアを開け、そこから黒いビニール袋に入った壜(びん)を売ってくれた。ウォッカだった。

 車内は禁酒といっても、コンパートメントは内側から鍵がかかってしまう。となるともう飲み放題。ウォッカの酒盛りがはじまるのだ。なんだか抜け道だらけなのだ。

 先月、サハリンのユジノサハリンスクを訪ねた。飛行機のトラブルがあり、宿から街に出たのは夜の11時すぎ。24時間営業のスーパーで夕飯は手に入ったが、ビールコーナーはシャッターがおりていた。ふと、通りを見ると、売店の前に男が3人、列をつくっていた。売店のドアは閉まっていたが、男たちの先には小窓が。僕とカメラマンはその列についた。小窓のなかにいる女性に、「ビールを……」というと、彼女は人差し指を1本立てた。カメラマンとふたりだったので、2本の指を立てると、奥から黒いビニール袋に入ったビールをもってきてくれた。受けとると、ずしりと重い。なかを見ると、1.5リットルのビールが入ったペットボトルが2本入っていた。酒を飲む量の基準が違う……。

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ビールは酒ではなく、食品だった