しかし、数年後に不摂生のツケがくる。もともと、拒食気味になったのも「口が開きづらい」というあごの不調からだったが、そこには我流で習得したサックスの無理な吹き方も影響していた。だましだまし生活していたものの、26歳のとき、ついに顎関節症と診断されてしまうのである。
いろいろと治療を試みるなか、鍼灸師には「顎だけに負担が集中しないように身体全体に筋肉をつけるように指導」された。そこで、縄跳びに取り組んだのを皮切りに、マッチョ化へと進んでいくわけだ。
ただし、それ以前にも、ジムに通ったりはしていた。心身の不調を知った人に、身体を動かして感情をコントロールすることをアドバイスされたからだ。前出の著書には、こんな文章がある。
「すぐには納得いかない部分もありましたが、勧めてくれたのが当時お付き合いしていた女性ということもあって、何はともあれ始めてみようと思いました」
この女性とはやがて破局したが、武田にこのヒントを与えたことで、その再ブレイクにひと役買うこととなった。
■知性あふれる確かな演技力
とはいえ、彼はいわゆる「筋肉バカ」ではない。13年公開の映画「二流小説家 シリアリスト」で謎めいた死刑囚を演じた際に語った演技プランは知性あふれるものだ。「結論から逆算して演じないこと」を自らに課したとして、こんな説明をしていた。
「たとえば、ブーメランの飛距離が短くてすぐ戻ってきてしまうと戻ってくるまでの時間を楽しめないようにスリルが半減してしまうと思ったんです」(パンフレットより)
高校時代、倫理が好きだったというだけあって、じつは哲学者タイプ。そういう意味では現在、文武両道を極めつつあるともいえる。ただ、そこには落とし穴もなくはない。たとえば、三島由紀夫のケースだ。
この作家はボディビルに目覚めてマッチョ化するなかで、武士道に傾倒していき、最期は自衛隊にクーデターを呼びかけ、割腹自殺を遂げた。ちょうど49年前の今頃(命日は11月25日)だ。力強さへの志向はときに、そんな変容も生む。