また、コーヒー専門店は時間消費型であり、かつ立地産業だ。コーヒー店を「サード・プレイス」と呼ぶことがあるが、これは家と職場(学校)以外にある「第三の居場所」という意味だ。

 実際、「食べログ」のコーヒー専門店上位にランキングする約80%が、駅から500メートル以内に出店している。しかし、一番駅に近い店舗でさえ、57メートルも離れていた。なぜなのか?

 賃貸物件では、保証金(敷金に充当するが、家賃の滞納や退去時のスケルトン戻し[原状回復]で工事費用の補填となる債務保証担保の役割)が必要だ。飲食業は「多産多死」産業でもあり、飛ぶ(急に経営者と連絡が取れずに、閉店する意味)ことがあるので、担保が必要となるのだ。賃料の約2カ月分から、場合によっては24カ月分もかかる。駅ナカや駅前の一等地では、より高額の負担が条件となる。

 しかも、お金を積みさえすれば、駅ナカなどにコーヒー店を出店できるわけではない。経営がうまくいかなくても、数カ月での撤退は許されない。ブランド価値を追求する一等地のオーナーにとっては、大手チェーンのような信用保証が優先でものをいうのである。

 夢を追いかけることは大切だ。ただし、それが趣味からプロの世界へと実現可能かどうか、これからの人生設計とともに開店準備のための収支計画、事業計画を詳細かつ具体的に描く必要がある。夢を見るだけではお金にならず、決してお腹も満たされないことだけは確かだからだ。(新山勝利)

新山勝利(にいやま・しょうり)
研修セミナー講師、マーケティング・コンサルタント、大学講師。日本商業学会、日本マーケティング学会、日本プロモーショナル・マーケティング学会・正会員。顧客満足を高める売り場づくり、販売促進、店舗の活性化(ミステリー・ショッパー、マニュアル作成)のノウハウを提供する。メーカーのリテール・サポートにはじまり、全国の商工会議所など団体組織、広告代理店、卸売業、量販店、チェーン店等でコンサルティングを展開。他業界の豊富な成功事例の写真や図表を用いた、わかりやすい理論的な説明が特徴。飲食店の経営者経験もある。食べログで3.50点を達成するため、飲食店のコンサルティングでは、点数を分析したデータ主義で売り上げ向上をはかる。また多数の専門誌に執筆。著書に『売れる商品陳列マニュアル』(日本能率協会マネジメントセンター)など。ホームページはhttp://www.ureru.jp/