“凡打の同点打”の清水は昨夏の甲子園でブルペン捕手も務めるなど、実は投手を含め、全ポジションを守ることができるマルチプレーヤーでもあり、センバツでは背番号「3」、今大会は背番号「4」で二塁のレギュラーポジションを務めた。

 挟殺プレーで甲子園をうならせた背番号「13」の岡田も、バッテリー以外は可能だという。センバツでは背番号「4」で、5番打者として甲子園で本塁打も放っている。

 近い将来、高校野球では複数投手制、さらには球数制限、日程による登板制限などの導入が本格的に検討されるだろう。そのルールが定められれば、登板しない投手が野手として出場するケースも増えてくる。そのとき、ポジションがかぶると戦力低下は否めない。公立校ともなれば、限られた戦力でのやりくりがより切実になってくる。

 そんなとき、清水や岡田のように何でもできる上に、すべてのプレーをレベル高くこなせる「マルチプレーヤー」の存在は、より貴重になってくる。こうしたプレーヤーをさりげなく忍ばせておき、存分に活用できるように「準備」させておく。それが、勝ち抜いていくための、新たな戦略の1つになってくるだろう。

 この夏、明石商が見せた、細かく、そつのないあの空気感は、ひょっとしたら高校生らしからぬ「渋いプレーヤーたち」が醸し出していたものなのかもしれない。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知の球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。2017年7月からスポーツライターとして活動。2019年8月21日に、高校不登校・中退から単身渡米、イチローよりも先に「日本人初の野手メジャーリーガー」になりかけた根鈴雄次氏の半生を描いたノンフィクション「不登校からメジャーへ イチローを超えかけた男」(光文社新書)出版。