
どう見ても「凡打」なのだ。
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なのに、明石商・清水良は自らの放ったボテボテの打球を目で追いながら、右手で会心のガッツポーズを作り、笑顔で一塁ベースへ向かって走った。狭間善徳監督の拍手はまさしく、そのプレーが“決まった”ことへの最大の賛辞。一塁側ベンチの明石商ナインが清水に向かって何度も右こぶしを振り上げ、一塁側アルプスの熱狂も最高潮に達していた。
「あれは、明石商的には、最高のプレーなんです」
清水はそういって、あのシーンを総括してくれた。まさしく、明石商の「すべて」が凝縮されたとも言えるそのプレーが飛び出したのは8月16日の3回戦、対宇部鴻城戦でのことだった。
1点差を追う8回だった。先頭の宮崎涼介が中前打で出塁。ここで狭間監督は代走にチーム一の俊足、窪田康太を送った。続く福井雄太は初球にすかさず送りバントを決め、得点圏に走者を送った。リズムよく、小気味のいい攻撃だ。この1死二塁の場面で、清水が打席に入った。
ファウル、ボール、ボール、ストライクで、カウント2ボール2ストライク。その4球の間に、窪田はスタートのタイミングを計っていた。
狭間監督の分析力は、半端なものではない。宇部鴻城戦を前に、夏の山口大会4試合、さらに甲子園2回戦の宇和島東戦の計5試合の映像を入手。明石商ナインはそれらの映像をざっと一通り、流れを踏まえながら見る。その翌日になると、その中から「こういう特徴がある」とピックアップされた映像を見せられ、相手の傾向をインプットする。
マウンド上の宇部鴻城の左腕・池村健太郎には、こんなクセがあった。
「彼は、必ずホームを見ないと、ホームに投げられないんですわ」
狭間監督がこの発見を明かしたのは、試合後のことだった。
セットポジションからのけん制球。ただ、実際に送球するだけではない。走者のリードを少しでも抑えるため、首を動かし、視線を送ることで走者の動きを止める。これだって、れっきとしたけん制だ。