この間、久しぶりにAERA編集部のK野デスクと担当のN女史と食事をしました。
K野デスクと食事をする時は要注意です。前回は、天ぷらコースにかき揚げを追加したばっかりに、新感線のムックに『桃太郎地獄絵巻』を掲載することを許可せざるを得なかった。食い意地をはっていると、また何か無理な注文を頼まれるかもしれない。
でも、銀座のご飯という誘惑には負けてしまう。つくづく自分の人の器の小ささと胃袋の大きさに辟易します。
今回は、自然食のコース。
いや、天ぷらもよかったがこれもうまい、うまいですよとパクついていると、またK野デスクの眼鏡の奥の瞳が光った。
「ところで中島さん・・・」
「あ、ちょっと待って下さい。このパターン、いやだなあ。作家を呼び出して食事して『ところで・・・』という時は、だいたい連載打ち切りか、さもなければ重要な話かのどちらかですよ」
「よく、おわかりですなあ」
「僕も編集者をやってましたからね」
「ああ、そうか。こちらの手はお見通しというわけですね」
やりにくいなあと笑うK野氏だけど、ほんとにやりにくいとは思っていないでしょ。
さすがはAERA編集部でニュース班を仕切っているだけのことはある。柔和な表情の底に自分の真意を隠すのは、職業柄お手の物ということか。
「それでですね・・・」と、K野氏が切り出すと、彼の携帯が鳴った。会話をやめ、電話を受ける。「なに、海保が・・・」ちょっと失礼と、K野氏は席を立ちました。
尖閣ビデオ流出問題に関わる電話でしょう。食事をしたのは、ちょうどビデオを流出させた海上保安官が名乗り出た日。この時の電話も今週発売号のAERAのスクープ記事に関わることだったのでしょう。
その現場に居合わせたのはちょっとワクワクするけれど、それはそれとして自分の方の話もはっきりさせて欲しい。
AERA-netの連載は、僕の数少ない連載の一つ。フリーになった途端に打ち切りになると、気持ち的にもダメージは大きい。
残ったN女史を見ると、言いたいことがあるのだろう、口元がうずうずとしているが、上司の手前自分からは言い出せないようだ。
ここはとりあえず飯を食おう。
さすがは自然食。魚の焼いたのとかコロッケとか出てきてるが、どれも自然食っぽくてうまいぞ。
なんだよ、自然食っぽいコロッケって。ボキャブラリィ少なすぎだよ。こんなんじゃ、とてもグルメリポートはできないな。うお、これでまた一つ仕事の幅が狭まった。
まずい、まずいぞ、中島。
いや、料理はうまいんだが、自分の立場がまずいぞ。
などと一人ツッコミしていると、K野デスクがようやく戻って来ました。
「いや、失礼。ちょっと急ぎの電話が」と、言い訳しながら入ってくるのがまるでマスコミみたいだ。みたいじゃなくて、実際そうなんだけど。
同じ編集者とは言え、僕はマンガと書籍が中心で、週刊誌や事件物をやってないんで、こっちの雰囲気には憧れますよ。
さて、改めてK野氏が口を開きます。
「中島さん、実はですね・・・」
「なんでしょう」
「実は、編集長とも相談したんですが、『電人N』を本にしませんか」
というわけで、かなり脚色して引っ張りましたが、二人の話というのはこの『電人N』の書籍化の提案でした。
いや、嬉しい。この出版不況の中、よくぞ考えてくれた。偉いぞ、AERA編集部、偉いぞ朝日新聞出版。
せっかく書籍にするのならと、N女史もいろいろ企画を提案してくれて、コラムだけには終わらない本になりそうです。
発売時期はまだ未定、今はまだ来年のどこかでということしか言えませんが、決まりましたら、また改めてお知らせます。