松之丞もすでにそういう存在になりつつある。講談という世間であまり知られていなかった業界に、新しい風を吹き込んだ。松之丞の恐るべきところは、彼が単に講談界の内部にとどまらず、積極的にテレビやラジオにも進出して活躍していることだ。

 特にラジオでの松之丞は絶品である。レギュラー番組の「神田松之丞 問わず語りの松之丞」(TBSラジオ)では、たった1人で30分間しゃべり続けている。その内容の大半が身のまわりで起こった出来事に関する愚痴と悪口である。いわゆる芸能界とは一線を画す講談の世界に身を置いているだけあって、一切のタブーを恐れていない。昨今、世間を騒がせている芸能界の掟のようなことも彼には関係ない。思いつくままに全方位的に毒を吐きまくっている。

 こういうタイプのスター候補は久々に見た。演芸界では立川談志以来の逸材である。実際、松之丞自身も談志に強い影響を受けているという。東京のこのタイプの毒舌系カリスマ芸人には「立川談志-ビートたけし-太田光」という1つの系譜がある。これを受け継ぐ存在になりつつあるのが松之丞である。

 実際、太田とは互いのラジオ番組で愛のある悪口を交わし合う仲であり、「お願い!ランキング」(テレビ朝日系)では2人の対談企画「太田松之丞」もたびたび放送されている。

 2020年には名跡である神田伯山を襲名して真打ちに昇進することも明らかになった。すでに多くの人を魅了しているその芸は、これからさらに洗練されていくのだろう。

 この人と同時代に生きていて良かった。そんなことを思わせるほどの芸である。テレビやラジオで見せているひねくれた毒舌キャラは彼の一面でしかない。チケット入手はきわめて困難ではあるが、ぜひ一度見てみてほしい。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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