フェンスに当たって跳ね返ってきたのならインプレー。荒井のグラブの先に当たって落ちてきたのならアウトという審判泣かせの微妙なシーンだが、鷲谷亘・三塁塁審は「グラブに当たり、(荒井の)体に当たってから捕球した」として「アウト!」をコール。ゲームセットになった。

 もしフェンス直撃の長打と判定されていたら、巨人は点を返し、なおもチャンスが続いていただけに、当然藤田元司監督は収まらない。

「ベンチでもフェンスに当たる音が聞こえた。それに二塁(塁審)の福井(宏)さんはセーフの判定をしているんだからね。これではやっぱり(審判)6人制じゃなきゃということになる」と激しく抗議した。原も「僕もフェンスに当たったのがわかったよ。冗談じゃない」と不満をあらわにした。

 だが、頼みの綱・福井責任審判も協議後、「難しいプレーだった。鷲谷君はグラブに当たって跳ねたボールを、荒井君が左の肩か胸のあたりで押さえたという判断だ」と判定支持に回ったため、巨人側の抗議は却下された。

 前年は開幕戦での篠塚利夫の“疑惑の本塁打”など審判4人制移行の恩恵を受けた巨人だったが、1年後、くしくも同じヤクルト戦で、そのツケが回りまわってくることになろうとは、まさに因果応報?

 先制タイムリーとなるはずの長打性の当たりが、フェンス際で外野手が落球したにもかかわらず、なぜかセンターゴロに打ち取られてしまう珍事となったのが、93年7月30日の巨人vs阪神甲子園)。

 0対0の1回、阪神は先頭の和田豊が四球で出塁したあと、次打者・八木裕が中越えに大飛球を放った。

 俊足堅守のセンター・モスビーがフェンス際でジャンプ一番好捕。だが、味方のピンチを救う超美技と思われた次の瞬間、モスビーはフェンスに激突し、いったんグラブに収めたボールを倒れ込んだ際に落としてしまう。このミスに乗じて、阪神が1点を先制したかに思われた。

 ところが、阪神にとっては不幸なことに、一塁走者の和田はモスビーの落球に気づかず、中直と思い込んで、一、二塁間で躊躇しているではないか。インプレーに気づくと、大慌てで再び二塁に向かったが、時すでに遅し。この間に体勢を立て直したモスビーは、持ち前の強肩で素早くボールを二塁に返球。和田はまさかの封殺アウトになってしまった…。

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名手のプライドで意地の貢献