こうした過酷な連結勤務の後で夕方のラッシュ時まで運転を任されることもあった。翌日は日勤で朝6時頃からの勤務となる。朝5時から夜10時まで働くこともザラだった。
毎日、やっとの思いで乗務が終わって帰ろうとすると急に「終電やって」「連結やって」と頼まれる。それでも基本給17万6000円と残業手当を合わせた手取りの月給は20万円。過労死寸前で働いても手にとる賃金があまりに見合わない。
「これではいつ事故を起こすかもわからない。いつか結婚した時、この状況では家庭が犠牲になる」と、再び転職活動を始めた。
転職になんとか成功し、自治体が運営する鉄道会社で運転士となった広樹さんは、最初の1年は臨時職員として雇われた後で正規雇用に登用された。月給はトータルで27万円を超える。家賃や光熱費、社会保険料などを払っても、手元に20万円近く残る。社内の労働組合の活動が積極的なことで、休日出勤を命じられることもなく、休日にシフトが組まれれば、きちんと割り増し賃金が保障される。やっと安住の地に着いた思いだ。
広樹さんの場合、ニート状態になっても持ち直してなんとか這い上がることができたが、そうできる人ばかりではない。若くてもブラック企業で働くうちに完全に心が折れてしまって再起できなくなる、あるいは、非正規雇用が続いてしまう例は決して少なくない。
労働政策研究・研修機構(JILPT)の「壮年非正規雇用労働者の仕事と生活に関する研究」(2015年)では、若年を25~34歳、壮年を35~44歳と定義して、「男性の場合、20代前半に販売職、サービス職(資格不要)、飲食サービス業に従事していると壮年期に非正規雇用労働者となることの何らかの関係があると考えられる」としている。
同レポートで注目されるのは、若年期に正社員であっても退職時の状況が、「深夜に就業することがあった」「休日が週に1日もないことがあった」「心身の病気やけがをした(仕事が原因)」「職場でいじめや嫌がらせがあった」「1週間の労働時間が60時間を超えていた」のいずれかに該当する場合、そうでない場合と比べて、壮年期に非正規雇用になりやすくなるメカニズムがあると指摘されている。