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2018年11月、朝日新書より佐藤優さんが『官僚の掟 競争なき「特権階級」の実態』を、津田大介さんが『情報戦争を生き抜く 武器としてのメディアリテラシー』を上梓。それを記念した対談イベント「情報戦争の黒幕~その視線の先に迫る」が開催された(2018年12月9日)。同イベントでは、“情報”を専門的に分析する両者が、外交の力関係からマスコミと官僚の癒着、沖縄に関する問題まで、幅広い話題を闊達に論議。その一部を紹介する。
※前編「佐藤優が指摘する記者クラブと官僚のズブズブ関係 『情報がゆがめられている』のが基本 <佐藤優×津田大介対談>」よりつづく
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■沖縄の文化と政治、アイデンティティー
津田:沖縄の基地問題では、辺野古が大きく取り上げられるようになった結果、本土の世論調査も少しずつ変わってきた。これこそが、翁長雄志さんの最大の功績だったと僕は考えています。
佐藤:逆に、翁長さんは日本を見ていなかった、見なくなったと僕は捉えていて、それが最大の功績だと考えています。2013年に行われた「NO OSPREY東京集会」で、翁長さんは道行く人の無関心さに驚き、「沖縄人」として自己決定権を強化していかなければならないと感じたそうです。つまり、沖縄人としてのナショナリズムの必要性を認識し、日本と沖縄を分節化したということが、翁長氏の最大の功績だと思います。
津田:なるほど。
佐藤:辺野古では、今、淡々と、粛々と工事が進んでいると思っている人も多いでしょう。一方、その結果として、沖縄の中では“日本”に期待せず、自己決定しようという力が、どんどん見えない形で蓄えられています。ある種の臨界点に来たときに、それは爆発する可能性があると思います。
津田:沖縄には予算の問題もあります。離島振興を名目に、予算編成権は内閣府が握っています。つまり典型的な植民地予算ということですよね。構造化された差別というのが、やはり沖縄の中ではあって、それが可視化されてきているなと感じます。
佐藤:翁長県政で変わったことについて、翁長さんはイデオロギーよりもアイデンティティーだと言っています。沖縄人には四つのアイデンティティーがあるんです。(1)完全な日本人だというアイデンティティー。これは文字どおりの意味だけでなく、“完全な日本人”だと強調することが、自分の中にある「完全な日本人ではない」という意識の表出であるとうことです。仲井真弘多元知事がその代表です。
津田:あえて“日本人”と宣言してしまうんですね。
佐藤:そう思います。次が、(2)沖縄系日本人。最大のボリュームゾーンだったと思います。沖縄、日本といったことを深く考えないけれども、ルーツは沖縄にあると自認しているタイプです。
津田:郷土愛を持った日本人のイメージでしょうか。
佐藤:郷土愛を持ったというよりも郷土愛が強いと表現した方が正確だと思います。さらに今、増えているのが、(3)日本系沖縄人です。沖縄と日本全体の利害が対立する問題が出てきた場合、沖縄の利益を優先するタイプです。翁長さんは(2)から(3)に変遷したひとりだし、東京出身ですが私もその一人だと自認しています。今、雪崩的に、(2)から(3)へのアイデンティティーへ変遷が起きているわけです。