すべてが計算されているかのような展開に、会見でも記者から「クーデターではないか」との質問が出たほどだ。西川社長は即座に否定したが、額面通りに受け止める人はいない。前出の郷原氏は言う。

「問題は、日産社内で通常のガバナンスに基づいてゴーン氏を追い落とすことができないので、特捜部の力を借りてクーデターを起こし、特捜部もそれに加担したように見えることです」

 ただ、ゴーン氏を逮捕しても、特捜部が裁判で有罪に持ち込める見通しは立っていない。捜査関係者は言う。

「特捜部は、ゴーン容疑者とケリー容疑者のどちらにも調べができていないようだ。先進国では、取り調べに弁護士が同席するのは当たり前。それができないのは日本ぐらいだ。今後もほとんど取り調べはできないのではないか」

 さらに、「人質司法」の問題もある。日本は、外国に比べて身柄拘束の期間が長い。森友問題では、籠池泰典氏と妻の諄子氏が約10カ月にわたって勾留された。外国からは時代遅れの捜査手法として批判されている。特捜部もこのことを認識しているはずだ。ある特捜部OBは「人権問題に敏感なヨーロッパから批判を浴びるような長期勾留はできないだろう」と話す。また、今回の事件は「特別背任罪」での立件も視野に入っているが、海外の子会社を通じて資金が流れており、捜査の難航も予想される。

 ゴーン容疑者については、かつて一緒に仕事をした人からすら「金に執着のある人。逮捕はさもありなんだ」と言われるほど、批判も多かった。ヴェルサイユ宮殿での結婚式など、派手な生活についても報じられている。一方、ルノー・日産・三菱自動車という自動車メーカー3社の調整役で、日本とフランスの間で敵が多かったのも事実だ。今回の逮捕によって、ルノーと日産の提携にも影響が出ることは避けられず、事件の背景はさらに複雑なものになっている。

 東京地検特捜部は、前例のない「大物外国人の逮捕」と「役員報酬の虚偽記載」という、これまでに通ったことのない“いばらの道”を歩もうとしている。そもそも、ゴーン氏が釈放された後、日本から離れたらどうするのか。公判すら開けない可能性もゼロではない。郷原氏は言う。

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検察の捜査は正しかったのか