東電「津波想定」引き下げるため圧力 東北電力のメールで明らかに

AERA

事故後初めて公開された東京電力福島第一原発の4号機の原子炉建...

 福島第一原発事故の東京電力旧経営陣の責任を問うた裁判で、次々と新たな事実が明らかになった。技術者たちが「対策不可避」と判断していたにも関わらず、経営陣が対策を先延ばしにしていた驚きの事実に加え、政府や国会の事故調査委員会の機能不全も改めて見えてきた。AERA 2019年10月7日号に掲載された記事を紹介する。

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 事故前、他の電力会社はどんな津波対策をしていたのか。それがわかれば東電の対策が不十分だったかがわかる。そんな基本中の基本とも言える情報も、この刑事裁判でようやく明らかにされた。電力業界ぐるみで事故後もずっと隠してきたようだ。

 日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)は、東電が先送りした地震本部の予測をもとに対策を進めていた。原電に出向していた東電社員の証言で初めてわかった(18年7月、第23回公判)。

 地震本部の予測では、津波は敷地高(約8メートル)を超えることが判明。原電の技術者たちは08年8月の常務会で、この予測への対策を進めることを報告した。東電経営陣とは異なり、原電役員たちから反対はなかった。

 海辺のポンプ室の壁を高くしたり、敷地の一部を盛り土で約2メートルかさ上げしたり、建屋の入り口を防水扉や防水シャッターに取り替えたり、防潮堰を設けたりする対策を施した。

 東海第二も、東日本大震災で大津波に襲われたが、ぎりぎりで大事故を免れた。社員は、対策工事の効果があったことを法廷で認めている。

 また、東北電力の津波想定を引き下げようと、東電は圧力をかけていた。これは、東北電力社員が証拠となる電子メールを裁判に提出し、初めてわかった。

 東北電力は、宮城~福島沖で発生した貞観地震(869年)について最新の研究成果を取り入れ、女川原発(宮城県)の津波想定を見直す報告書を08年11月に完成させた。ところがこの内容は東電にとって都合が悪く、福島第一に適用すれば、津波は敷地の高さを超え、対策を迫られるものだった。そこで東電は、東北電力に圧力をかけ、これを書き換えさせた。

 東北電力の担当者は、検察の調べにこう供述した。


「東電は、当社が確定的に貞観津波を扱うと、それが先例になってしまうことを恐れたのだと思います」

 政府事故調は、力不足だっただけではない。これは刑事裁判で明らかになったわけではないが、政府事故調は政府に都合の悪い情報を意図的に隠していたことも判明している。

 保安院幹部が出席した06年9月の会議でこう報告されていた。

「我が国の全プラントで(津波の)対策状況を確認する。必要ならば対策を立てるよう指示する。そうでないと『不作為』を問われる可能性がある」

 政府事故調はその議事録を入手していたことが昨年12月、内閣府の開示文書で明らかになった。政府の責任を解き明かすうえで重要な事実だが、政府事故調は報告書に一文字も書いていない。

 政府事故調の委員だった吉岡斉氏(故人、九州大学元副学長)は、事故調について、こう話していた。

「他の政府審議会と同様、役人主導。事務局が用意した文案にもとづいて検討する。委員の意見は反映されたり、されなかったり」「役人への甘さ、霞が関官僚への批判は何も書かれていない」

 被害者代理人を務める海渡雄一弁護士は、今回の裁判についてこう言う。

「闇に葬られていたかもしれない資料を引っ張り出した刑事裁判の意義は大きい」

 そもそも東京地検は不起訴にしたが、検察審査会は旧経営陣3人を2度にわたって「起訴相当」と議決し、ようやく刑事裁判は始まった。

 一方、現在の刑事裁判には限界もある。

「個人の責任を問う捜査では、被告人に近い範囲に捜査が限定されてしまう。組織的なミスの構造を解明するためには、組織罰のような別の仕組みを検討するべきだ」(津久井進弁護士)

 1985年の日航ジャンボ機の墜落、05年のJR福知山線脱線事故など、大きな組織が起こす事故には、個人だけでなく、安全を軽視する組織文化が根強く影響している。事故調や刑事裁判は、これまでも全容の解明に苦労してきた。

 事故の全体像を探り、再発を防ぐためには、事故調による原因究明、企業や個人への刑事責任の追及をどんな分担で進めるのが、最も良いのか。事故調のメンバー選定や、権限はどうすべきなのか。事故調の機能不全が再び明らかになった今回の裁判を契機に、議論をより深める必要があるだろう。(ジャーナリスト・添田孝史)

※AERA 2019年10月7日号より抜粋

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