1月に行われた大相撲初場所で、大関稀勢の里が初優勝し、横綱に昇進した。「19年ぶりの日本出身の新横綱」と注目を集めているが、今回の昇進の価値はそれだけではない。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、相撲ライター・十枝慶二(とえだけいじ)さんの解説を紹介しよう。
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相撲は日本の国技だ。でも、最高の地位の横綱は、ここ十数年、白鵬をはじめとするモンゴル出身力士が独占してきた。それを打ち破った稀勢の里は、「19年ぶりの日本出身の新横綱」と注目を集めている。でも、今回の昇進の価値はそれだけではない。
稀勢の里は、早くから将来の横綱と期待されていた。一人前の力士の証しとされる十両には、17歳9カ月と史上2位の若さで昇進している。ところが、横綱が近づくにつれ、出世のスピードは遅くなった。横綱になるには、原則、優勝が必要だ。ところが、準優勝にあたる成績は12回も残しているのに、なかなか優勝できなかった。これに勝てばという大一番で、ことごとく負けてしまうのだ。そんな稀勢の里には、「心が弱い」というレッテルが貼られた。でも、ほんとうにそうなのだろうか。
稀勢の里は、逃げずにまっすぐ当たって前に出る相撲を磨き、どんなときでも貫いてきた。ほとんどの力士は、そんなことはない。苦手な力士と対戦するときや、絶対勝ちたいという大一番では、「勝つため」に、相手の意表をつき、逃げてかわしたりすることもある。でも、稀勢の里はそんな小細工は一切しない。いつものように、まっすぐ当たって前に出る。「勝つため」に自分の相撲を曲げていては、強くなれないと思ったからだ。相手は、それをあざわらうかのように、裏をかいてきた。大切な取組で何度も負けたのはそのためだ。
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