デビュー作『大家さんと僕』がベストセラーとなり、書き手としての才能も開花させた矢部太郎さん。「AERA with Kids春号」(朝日新聞出版刊)では、本作の原点とも言える、子ども時代の読書体験や本へのこだわりについて、矢部さんにお話をうかがいました。
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父が絵本作家でしたから、本を大事にする習慣が身についています。本を開いたまま伏せて置くと、「本がかわいそうだ」と叱られることも。僕の「太郎」という名前も、後に絵本のキャラクターにするために付けたそうです。実際そういう絵本はないですが(笑)。
決して裕福な家ではなかったけれど、本だけはたくさんあって、親にも「本だったら何でも買ってあげるよ」と言われていました。父の描いた新作紙芝居を読んでもらって、感想を求められることもよくありました。年齢が上がると、父が求めている答えが分かってきて、かなり忖度しましたが(笑)。
そんななか、お小遣いで買っていたのが、『タンタンの冒険』シリーズです。とにかく大ファンで、新刊のお知らせなどを掲載する『タンタンタイムズ』という挟み込みチラシがあったのですが、読者の声欄にイラストを応募して、掲載されたこともありました。あのときは本当にうれしかったですね。
小学校高学年くらいになったら、自分で図書館に通うようになり、江戸川乱歩作品、『シャーロック・ホームズ』『怪盗紳士ルパン』などのシリーズを全巻制覇しました。この頃は本当に読書が好きで、父のように、絵本作家など本に携わる仕事がしたいとも考えていました。ただ、中学、高校のときにはプラモデル作りにハマって、プラモデルメーカーに勤めたいと思うようになっていたのですが(笑)。
ただずっと読書は大好きで、今でもよく家の近くの小さな本屋さんをうろうろしています。本屋さんにオススメの本を聞いたりしながら、ベストセラーから漫画、小説、懐かしい名作、絵本まで、いろいろと読んでいます。
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