あとは絵がきれいだったり、上質な紙を使っていたり、大切に作られていることが感じられる本もつい手に取ってしまいますね。本にはそれぞれ書き手のメッセージが込められていますから。今改めて、いろいろな人の考えや価値観に触れられる点が良かったと思っています。

 自ら本を書くようになってからは、他の人の本を手に取って、「どうやってこんな素晴らしい本を書けるのだろう?」「これを書くのにどれくらい時間がかかるんだろう?」とか、考えるようにもなりましたね。作者のみなさんは、本当にすごいと思います。

 最近は刺激的なバトルものや、わかりやすくインパクト重視の本が多い気がします。でも、小学生には西原理恵子さんの作品のように、悲しさの中にもユーモアがあったり、説明しすぎず、読者にも考えさせる余韻を残したりするような良質の作品も読んでほしいですね。

 以下に、心がじんわりと温かくなる、おすすめの本を4冊紹介します。

■『いけちゃんとぼく』
西原理恵子/著(KADOKAWA)

 決して幸せなことばかりじゃない少年の前に現れた不思議な生き物・いけちゃん。とにかく優しく心に寄り添ってくれます。少年が大人になる過程が切なくて、予想外の展開もあって、何度読んでもジーンと胸が熱くなります。※品切れ中

■『ジェーンとキツネとわたし』
イザベル・アルスノー/絵 ファニー・ブリット/文
河野万里子/訳(西村書店)

 学校でいじめに遭う孤独な女の子のお話ですが、幸せの予感も感じられる、希望あふれる作品です。つらい現実のページは白黒で、大好きな本の世界に逃避するページはカラーと、ヒロインの心理が絵で構造的に描き分けられている点も斬新です。

■『タンタンの冒険』シリーズ
エルジェ/作 川口恵子/訳(福音館書店)

 漫画だけどカラーで絵もオシャレで、子どもが大人顔負けの推理で事件を解決するところが痛快。毎回いろいろな国に旅した気分になれるのも楽しくて、子どものころ、お小遣いでシリーズ全巻を集めるほどの大ファンでした。

■『飛ぶ教室』
エーリヒ・ケストナー/作 W.トリヤー/絵
高橋健二/訳(岩波書店)

 第一次大戦時のドイツ、男子の寄宿学校で起きる出来事を描いた名作。前書きで、「子どものころの気持ちを忘れないでいてくれますか?」という作者が書いているように、少年たちの繊細な心模様がリアルに書かれます。

「AERA with Kids春号」では、矢部さん以外にも、16人の識者に「小学生のうちに読みたい本」を取材し、紹介しています。

(取材・文/阿部桃子)

AERA with Kids (アエラ ウィズ キッズ) 2020年 春号 [雑誌]

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