素直に反省せず、他人のせいにしてばかりの妻に夫は不満を募らせています。娘が同じ振る舞いをしないか心配の様子。「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、「論語」から格言を選んで現代の親の悩みに答える本連載。今回の父親へのアドバイスはいかに。

*  *  *
【相談者:4歳の娘を持つ30代の父親】
 保育園年少の娘を持つ30代の父親です。娘には「ありがとう」「ごめんなさい」と素直に言える人になってほしいのですが、うちの妻は、とにかく素直に反省することができません。結婚して10年たちますが直りません。たとえば朝食時、妻がスマホをテーブルの端ぎりぎりに置いたため、娘のひじが当たって落下しました。そこで妻がまず放った言葉が「パパが新聞を広げているから、ここにしか置けなかったのよ」。

 先日デパートに出かけた際も、妻がスマホを家に忘れたため、私と娘が、妻とはぐれてしまい、やっと会えた瞬間も「なんで2人ともママのそばにいないの!」とキレる始末。「ごめんね」「次から気をつけるね」といった言葉は一切出てこず、他人のせいにしてばかりです。私はその都度、「素直に謝ることの大切さ」を言い聞かせてきたのですが、改善しなければ娘も同じように振る舞うのではと心配です。私が我慢するしかないのでしょうか。

【論語パパが選んだ言葉は?】
・「子曰わく、君子の天下に於(お)けるや、適(よ)きも無く、莫(あ)しきも無し」(里仁第四)

・「直(なお)きを挙げて諸(こ)れを枉(まが)れるに錯(お)けば、能(よ)く枉(まが)れる者をして直(なお)からしむ」(顔淵第十二)

【現代語訳】
・「君子は世の中のあらゆる物事に対して、決して、こうしようと固執することなく、また絶対にこうしないと決めることもない」

・「まっすぐな材木を曲がった材木の上に置けば、下の曲がった材木が押されてまっすぐになるように、正しい人間を曲がった人の上に置けば、曲がった人はおのずと正しくなり心服する」

次のページへ言い聞かせる必要も、我慢する必要もない
著者 開く閉じる
山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。平成国際大学新学部設置準備室学術顧問。大東文化大学名誉教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。ラジオパーソナリティ、イラストレーター、書家としても活動。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

1 2 3