安浪:なるほど。今までならわが子の特性から見て中学受験は無理、と思っていたご家庭に、中学受験の新たな道筋が開かれたということですね。

矢萩:そうですね。ここ10年ぐらい「書くことが苦手」な子は増えている印象です。

安浪:そういう子が私立中学に入った場合、普通のペーパーテストで入ってきた子と比べて差がついてしまう心配はありませんか?

矢萩:入学後のケアは正直学校によってまちまちですね。ある程度経験を積んでいる学校は、そういう新型入試で入ってきた生徒の扱いに慣れてきていますね。通りいっぺんの評価をしないというか。

安浪:1教科入試のところも出てきましたよね。あれはどうなんでしょう?

矢萩:うーん。本当は4教科で見て、その中で評価するのは1教科ですよ、というほうがいいと思うけれど。というのは、最低限のところはできているかどうか見ておかないとあとで学校側も困ると思うんですよ。

安浪:ホントにそうですね。中学では皆が机を並べて勉強するわけですからね。

■「お得な入口」ではなく、入学後のことを考えて

矢萩:昔、ある私立の先生が1科入試で入った生徒に対して「高校生なのに分数の足し算ができなくて困っている」と言っていて。困ってるんじゃなくて、「うちでガッツリやりますよ」というモチベーションがあるならそれはそれでいい学校だと思うけれど。合格させておいて困ってます、って愚痴を言うのはどうかと。

安浪:周りの子に勉強がついていけない、課題が多すぎてしんどい、と言った入学後の悩みはよく聞きます。「合格すればいい」ではなく、入学後のこともしっかり考えておかないとせっかく入学しても子どもが苦しむことになりますよね。でも、中学入試の手前にいると、新型入試が、つい「お得な入口」に見えてしまいがちです。

矢萩:一つの学校にもいろいろな先生がいるし、入ってみないとわからないんだけれど……。偏差値だけでない学校選びをしたい、という保護者のニーズは間違いなく増えています。しかし、少子化が進むなか私立中学においても、子ども中心ではなく、学校の生き残り戦略として新型入試を実施するケースもありますから、偏差値という指標がないぶん、保護者の見極め力も必要になってくるでしょうね。

(構成/教育エディター・江口祐子)

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安浪京子 矢萩邦彦
安浪京子 矢萩邦彦

安浪京子(やすなみ・きょうこ)/「きょうこ先生」として親しまれている中学受験専門カウンセラー、算数教育家。佐藤亮子さんとの共著『親がやるべき受験サポート』(朝日新聞出版)が好評。最新刊は『中学受験にチャレンジするきみへ 勉強とメンタルW必勝法』(大和書房)。

矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

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