もうひとつが同窓会との軋轢だった。同窓会も当初、小石川高校が中等教育学校に変わることに対して反対の立場だった。

 創立90周年記念のお祝いを「学校と一緒にやりましょう」と同窓会を誘った。同窓会と学校が一緒に行事を行うのは初めてだという。2008年は、小石川中等教育学校が3学年、小石川高校が3学年、合わせて中等教育学校の形になる年だった。11月に文京シビックホールで行った学校主催の式典には、同窓会のメンバーも参加。これに先立ち10月に、東京會舘で開かれた同窓会主催90周年祝賀会に学校側が招待された。「祝賀会では、同窓会が制作した『組曲小石川』が披露され、小石川の卒業生の層の厚さと多才ぶりを実感しました」

 同窓会との信頼関係も深まり協力を得られるようになると、卒業生の人材を生かし、土曜日を利用して生徒に向けて講演してもらう「小石川セミナー」を開始した。

「小石川出身の東大医学部の先生が、生徒を安田講堂に呼んでくれました。まだ修理前で学生運動の傷跡が残っていた。私のほうが興奮しましたね(笑)」

 栗原先生が進めたカリキュラム改革についても、卒業生から「府立五中、小石川高校の教養主義を受けついでいる」と歓迎された。方針は全員が全科目履修。理系文系を分けずに、理科ならば物理・化学・生物・地学、社会も日本史・世界史・地理・倫理・政経、数IIIも入り口まで、全生徒が履修する。中等教育学校として、文部科学省指定のスーパーサイエンスハイスクールに採択され、理数教育と国際理解教育を柱とした中高完全一貫のカリキュラムが完成した。

「予備校の先生からは、そんなカリキュラムでは大学進学に不利だと言われましたが、中高の時代に、たくさんの引き出しを作っておくことが大切だと思っていました」

 東日本大震災後の2011年3月、小石川高校は最後の3年生を送り出して閉校した。このような式典で何を話したらいいか悩んだ。

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