2000年代に入って交通網の整備が続き、開成にとってはなおも好条件が整う。開成への通学がしやすくなる2つの鉄道の誕生だ。
05年、つくばエクスプレスが開通した。つくば駅から出発して北千住駅で千代田線に乗り換えれば西日暮里駅まで1時間かからない。筑波大学など筑波研究学園都市の研究施設に勤務する学者の子どもたちにとって、開成は通える十分な通学距離となった。
08年には日暮里・舎人ライナーが開通する。日暮里駅と見沼代親水公園駅(東京都足立区)を結んでおり、西日暮里駅にも止まる。
ここでおさらいしよう。
西日暮里駅は京浜東北線、山手線、東京メトロ千代田線、日暮里舎人ライナーの停車駅である。これによって、たとえば、埼玉県さいたま市(京浜東北線)、神奈川県相模原市(小田急線)、千葉県柏市(常磐線)、乗り換え1回ですむ茨城県つくば市(つくばエクスプレス)からの通学が十分に可能となった。茨城、埼玉、千葉、神奈川をしっかりカバーしたことになる。
原さんはもう1つのケースを挙げてくれた。
神奈川県の栄光学園と聖光学院である。
「東京大合格者では少し前まで栄光のほうが多かった。いまは聖光のほうが多くなっています。栄光は大船、聖光は横浜の山手にあります。2000年以降、池袋方面から湘南新宿ラインに乗っても、宇都宮線や高崎線から東海道線に乗り入れる上野東京ラインに乗っても、さらに副都心線を介して東武東上線や西武池袋線が乗り入れる東横線に乗っても、横浜まで1本で行けるようになりました。このように通学圏が広がったことも、大学進学実績に影響しているのではないでしょうか」
開成はなぜ長期にわたって東京大合格者数トップを続けることができたか。
もちろん、熱心に指導した教師、懸命に勉強した生徒のおかげである。だが、新駅、新線、相互乗り入れで学校に通いやすくなったことで、優秀な生徒が集まったという背景も無視できないだろう。
交通網整備による通学圏拡大は、その学校の大学進学実績との因果関係が少なからずあるようだ。社会学、教育学的なアプローチでこのテーマを追究するのもおもしろいかもしれない。
(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)
朝日新聞出版