美術を学ぶ方法は学校だけではない

安浪:今回のケースだと「工作や造形が好きだから美術科のある学校を受験したい」ということですが、学校のことをどこまで調べたのかも気になりますね。美術科といっても授業では絵画がメインで娘さんが好きな工作や造形がちょっとしかないかもしれない。そもそも学校が何を目的として美術科を掲げているのか、入学しないとわからないこともあります。また、その学校でなければならないのかも考えたいところです。例えば、サッカー部が強い学校に行きたいという男の子はよくいますが、その学校の部活でないとサッカーができないわけではないし、クラブチームで活動するという選択肢もある。同じように、美術を学ぶ方法は学校だけではないはずです。

安浪京子さん
安浪京子さん

矢萩:そうですね。美術科だからといって、美術に多くの時間を割けるとは限りません。僕の教え子でも、美大を目指して進学したけれど合わなくて退学し、別の専門スクールに進んで、在学中からもうデザインの仕事を始めた子もいますよ。

安浪:中高一貫校でなくても美術が盛んな学校もありますしね。もしくは普通の学校に通って個人で教室に通うこともできるわけですし、美術科のある学校があるから、というだけで受験の話を進めてないかな、とちょっと気になりました。

矢萩:そもそも美術という括りが広すぎるんですよ。もちろん、小5の段階で何をやりたいかを決めきれないのは当然です。でも今はデザインやアートの世界も広がっていて、SNSで作品を発表して、フォロワーや仕事やプロジェクトなどの「案件」を獲得している高校生もいます。だから「美術科があるからその学校に行って夢が叶う」わけではないですし、むしろ自由時間が多い学校で、自分の時間を美術に費やすほうが夢に近づける場合もあるでしょう。そういう可能性もちゃんと提示してあげるといいと思います。「工作や造形が好きだから受験する」という発想自体が直結していないかもしれません。

安浪:「どこまで時間的・金銭的に寄り添うべきか」という質問についても、中学受験全般に言えることですが、お金や時間をかければ偏差値が上がる、と考えるのは誤解です。絵画のセンスや完成度も、時間とお金をかければ何とかなる、というものでもありません。

次のページへ親が「時間の無駄」とイライラしてしまうと…
1 2 3