「詰め込み」「偏差値」というイメージが強い中学受験。「受験のための勉強は子どもの将来に役に立つの?」「難易度より、子どもを伸ばしてくれる学校を選びたい」といった悩みを抱えている親御さんも増えています。思い切って「偏差値」というものさしから一度離れて、中学受験を考えてみては――。こう提案するのは、探究学習の第一人者である矢萩邦彦さんと、「きょうこ先生」としておなじみのプロ家庭教師・安浪京子さん。連載「偏差値にとらわれない中学受験相談室」、今回は、美術科のある中高一貫校を目指している小5女子のお母さんからのご相談です。

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「マイナス発言」は自信がないから、だけではない
美術を学ぶ方法は学校だけではない 長い人生の中でやりたいことを見極めていけば良い

「マイナス発言」は自信がないから、だけではない

矢萩:まず「マイナス発言」をする理由ですが、これは単に自信がないから、というだけではありません。実は、ある程度のシミュレーション能力を持っている子どもによく見られるんです。完璧主義的な傾向があって、ゴールを具体的に思い描ける。その一方で「自分にはそこまでできない」と感じてしまう。その結果、「だったら最初からやりたくない」と言ってしまうんですね。つまり想像力も構築力もあるのに、理想と現実とのギャップを埋められる自信がなく、やる前から「嫌だ」と言ってしまう。こうした子は今、とても多いです。

安浪:親から見ると「なんでそんなにマイナス発言ばかりなの?」と思うかもしれませんが、本人は未来の姿をリアルに想像できる分、そのギャップに敏感なのかもしれないですね。「こうなりたい」という理想が明確だからこそ、「今の自分には無理かもしれない」と怖くなってしまう。

矢萩:そうなんです。むしろ「ビジョンを立てられる」というのは才能なんですよ。大人の場合は必ずしもそれではないですが、子どもの場合、マイナス発言をするということは、やりたいことと現状のギャップを比較してシミュレーションできる能力があるということもあります。その能力はぜひ認めてあげてほしい。そして、お金をかけなくても工夫次第でできることはたくさんあります。たとえば絵を描くのが苦手でも、頭の中に完成イメージがある。だったら言葉で説明してAIに描かせる、といった新しい方法だってある。どんな方法があるかを家族で一緒に探すことも大切ですね。

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安浪京子
中学受験専門カウンセラー/算数教育家 安浪京子

やすなみ・きょうこ/「きょうこ先生」として親しまれている中学受験専門カウンセラー、算数教育家。佐藤亮子さんとの共著『親がやるべき受験サポート』(朝日新聞出版)が好評。最新刊は佐藤亮子さんとの共著『中学受験の意義 私たちはこう考えた』(朝日新聞出版)。オンラインサイト「中学受験カフェ」主宰。

矢萩邦彦
中学受験塾塾長 矢萩邦彦

やはぎ・くにひこ/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

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