いじめの被害者、加害者になったことがなくても、「傍観者」の経験を持つ人は、親世代にも多いのではないでしょうか? いじめを科学的に研究している和久田学さんは、2024年に絵本『いじめを科学の力でふせぐえほん いじめ、みちゃった!』を上梓。主人公は、いじめを傍観していた子です。和久田さんは「いじめをなくすためには傍観者教育が何よりも大切」と語ります。傍観者教育の意義と具体的な方法について聞きました。

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 いじめの8割に「傍観者」がいる

 ――和久田さんは「いじめを撲滅するためには、傍観者教育が欠かせない」とおっしゃっています。そもそも「傍観者」とは何ですか?

  いじめには、加害者と被害者が存在しますね。でも、そこにはもう一つ重要な存在がいるんです。それが傍観者、つまり「見ている人」です。

 カナダの研究で、「いじめは大人の目の前では起こりにくい」と指摘されています。ではどこでおこるかというと、8割は周囲に子どもがいる場で起きているのです。

 つまり、8割のいじめには子どもの傍観者がいるということです。

 傍観者は、いじめに加担する加害者側である場合もありますが、被害者の苦痛を同じように感じて傷ついている場合もあります。

 ――和久田さんはなぜ傍観者を重視しているのですか?

  一つには、いじめが見つけやすくなるからです。

 文部科学省も教育委員会も学校も、必死になっていじめの芽を探しています。それでも実態は非常にわかりにくい。

 さまざまないじめの研究でも、被害者・加害者を見つけることが難しいことが証明されています。加害者はもちろん、被害者も声を上げないからです。

 一方で、傍観者を見つけるのはたやすいのです。もしかしたらクラス全員が傍観者かもしれませんから。

  次に、いじめを目撃することで傍観者も心に傷を負うことがあるからです。「自分は何もできなかった」「臆病だ」と。被害者と同様に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症リスクが高まることも指摘されています。

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神素子
神素子

ライター じん・もとこ/教育系出版社を経てフリーに。雑誌・ウェブ・書籍などさまざまな媒体で、子育て、教育、医療、介護、高齢期などをテーマに記事を執筆。

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