ハードルが高いのは父親も同様です。“父親の産後うつ”となると周りからどう思われているか悩みます。明らかに食欲もなくて眠れていない。自分でもおかしいのは分かっている。でも妊娠出産もしていないのに「どうしてお前は精神科にかかるんだ」という目で世間から見られているんじゃないかと考えるわけです。特に男性の場合、こういう葛藤のハードルはすごく高いわけです。特に「男たるもの」という思想を持っていると、苦しくてもなかなか言い出せません。

 こういう目に見えないハードルをさまざまな方面から緩和したい。そのための一策が外来のネーミングでした。(妊産婦のための)「周産期のこころの外来」や「周産期の父親の外来」には「精神科」や「うつ」という言葉はどこにも入れていません。そうすると受診のハードルは下がりますし、周りも助言しやすくなります。「精神科ではないけれど、周産期の父親のための外来があるみたいだから行ってみない?」という風に。そうすると細い糸がつながるんです。

 体の不調と同じように、心の不調を感じたときは医療機関を受診することも選択肢として重要だということを理解してほしいです。また本人は気づいていないことがあるので、パートナーが変化に気づいてあげることも大切です。

(取材・文/大楽眞衣子)

【後編】会社からは「育休をとって」、妻からは「休まなくていい」と言われ…“父親の産後うつ”の背景とは?【医師に聞く】
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大楽眞衣子
大楽眞衣子

ライター。全国紙記者を経てフリーランスに。地方で男子3人を育てながら培った保護者目線で、子育て、教育、女性の生き方をテーマに『AERA』など複数の媒体で執筆。共著に『知っておきたい超スマート社会を生き抜くための教育トレンド 親と子のギャップをうめる』(笠間書院、宮本さおり編著)がある。静岡県在住。

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