こうして全員小学生以上になり、寝る前の子どもとの時間が幼児期よりずいぶんあっさりしたものになってきたところ、初心にかえれと言われたような、ハッとすることがあったんです。
ある日、野球で勝てそうだった試合にまさかの大敗を喫した次男が、夜、
「お母さん、今日はオレに絵本読んで」と声をかけてきて、4年生になって最近は読んでなんて言ってこなかったのに珍しいなと思いながら2階に上がっていくと、自分の寝る子ども部屋ではなく主寝室のベッドに座って待っていたんです。
見ると次男の手には4年生にはかわいすぎる薄い昔話が一冊。表紙には『さるかにかっせん』とありました。
選んだ絵本とうつむいた次男の様子を見て、込み上げてくるものがありました。
「今日の試合は残念だったね。でも次男はとてもいいプレーをたくさんして、あのまま勝てそうな勢いだったよね。だからこそ悔しいよね。それでも誰のことも責めなかった次男がお母さんは誇らしいよ」
と背中をなでながら話しかけると、次男はベッドにうずくまってむせび泣きをし始めました。
もともと口の重い次男。チームでは主軸として活躍しているだけに悔しさもひとしおのはず。それでも試合後もチームメイトを責めることもせず、表情に出すこともしませんでした。親のほうが感情高ぶっていろいろ言いたくなっちゃうぐらいだったのに、それでも自重していた彼が、他の兄弟のいない場所で素直に泣けるのはこの場所とタイミングしかなかったんだ、と気づいて胸がギュッとなりました。
ひとしきり一緒に泣いたら憑き物が落ちたようにスッキリした顔になって、どこかその日の試合への思いが重なるような『さるかにかっせん』を読んだあと、自分のベッドに入っていきました。
すっかりごっつくなった大きな背中をなでながら、それでも子どもにはお母さんの前でしか見せられない弱さがある。そんな、当たり前なのに忘れかけていたことを改めて思い出させられた出来事でした。
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