「どこで父親を支援していくのがよいか」を考え、全国の自治体の母子保健担当に向けてこのマニュアルを作成しました。妊娠・出産・子育ての支援対象を男性にも広げる。これは母親だけの育児からの脱却です。

 マニュアルを作ったことで、全国のさまざまな自治体の母子保健のみならず、子育て支援や父親に関わりを持つさまざまな団体や機関からも反響がありました。保健師や助産師の団体での研修会や、子育て支援者の講演会などの依頼も来ています。また新たに父親支援を始めたいという自治体からの問い合わせもあり、研究チームでのサポートを予定しています。

江戸時代の子育てや教育の中心は男性だった

――マニュアルの中にも書かれていますが、江戸時代の武家社会では父親が子育てを担っていたそうですね。

 はい。いろいろな説がありますが、江戸時代の武家社会では家名を残すことが一番大事な任務でした。後継ぎをちゃんと育てなくてはなりません。つまり教育です。一部文献には「子育てみたいな大事なことを女性には任せられない」とまで書いてあります。これはこれで大問題ですが、江戸時代は子育てや教育の中心に男性がいたということです。ポルトガル人の宣教師、ルイス・フロイスも「日本は子どもを大事にする国である」と驚いていた。

 ところが高度経済成長期以降、核家族化した日本の子育てはがらっと変わりました。母親一人が育児をするのが当然で、父親はすべきではないという文化です。これは専業主婦の出現と働く男性の存在によって日本社会に生まれた新しい価値観でした。

 今は共働き家庭も増え、この価値観は「偏りが大きくておかしい」と思えるようになりましたが、当時はその考え方が社会全体を貫いていました。今、日本の子育て、父親の子育てへの関わりは変わりつつあります。

※後編<「なんで男が育休?」から「育休どうします?」と会社に聞かれる時代に 父親育児はどう変わった?【専門家に聞く】>に続く

(取材・文/大楽眞衣子)

【続きを読む】「なんで男が育休?」から「育休どうします?」と会社に聞かれる時代に 父親育児はどう変わった?【専門家に聞く】
著者 開く閉じる
大楽眞衣子
大楽眞衣子

ライター。全国紙記者を経てフリーランスに。地方で男子3人を育てながら培った保護者目線で、子育て、教育、女性の生き方をテーマに『AERA』など複数の媒体で執筆。共著に『知っておきたい超スマート社会を生き抜くための教育トレンド 親と子のギャップをうめる』(笠間書院、宮本さおり編著)がある。静岡県在住。

1 2 3